烏羽先生は今年で三十歳と、教師にしてはまだ若い年齢らしい。
顔立ちもよく、生徒の気持ちも分かってくれる人気のある先生だ。

だがその一方で、何を考えているのか分からない不気味な思考を持つ怖い教師。

「は?今読んだじゃねぇか!」

そんな烏羽先生に瑠璃は声を張って反論した。
クラスに『大村』という名字は瑠璃しかいないから、瑠璃も違和感に感じたのだろう。

「いいから読め」

だけど、瑠璃の言葉を書き消すように烏羽先生は短く答えた。
その顔に表情はない。

烏羽先生は自分の教科書だけを見ていた。

舌打ちと共に、瑠璃は再び教科書の一文を読む。
先程と同じように何度も詰まる瑠璃だったが、何とか読み終えた。

烏羽先生の国語の授業は、楽しい雰囲気になることが殆どだ。
授業に関係無い余談が特に面白く、まるで仕込んできたかのような出来事を話す烏羽先生の授業はとても楽しいと思う生徒が多い。

だけど、今は不気味な空気が流れている。
今までとは全く違う雰囲気に、クラスメイトは驚きを隠せないでいた。

『一体どうしたのだろうか』って、みんな思っているんだろうな・・・・。

「んじゃ続きは・・・・そうだな。大村に読んでもらおうかな」

その言葉はある意味お笑い番組のようだった。

本来なら笑う所なんだろう。
だが烏羽先生の表情は何もなかった。

さっきから無表情で、不気味さをクラスメイトに感じさせると同時に不安にさせた。

瑠璃を除いては・・・・。

「お前おかしいだろ!」

隣のクラスにも聞こえそうな瑠璃の大きな声に、烏羽先生は相変わらず表情を変えない。

「なんで?」

「なんでって、なんであたしばっかり当てるんだよ!他にも居るだろうが!」

「でも俺は大村に読んで欲しいんだ」

「意味わかんねぇこと言ってるんじゃねぇよ!」

するとここで、烏羽先生は大きなため息を一つ吐いた。
それはまるで魔法を解く呪文のように。

『無表情』という魔法を解いた烏羽先生の表情がようやく緩んだ。
「お前さあ、さっきから山村に物を投げつけているけど楽しいの?みんなに迷惑かけて楽しいの?」

烏羽先生の、見たことのない怒りの表情を見たクラスメイトは、目を逸らした者もいた。

だっていつも温厚で笑っている烏羽先生だし。
きっと驚きを隠せないでいたのだろう。

一方で、僕は烏羽先生のその言葉でようやく理解した。