「あーうん。怒りの感情はなかったかも。ただ『辛かった感情』しか無かったっていうか。家に帰ったら、お母さんもお姉ちゃんもいたし。励ましてくれたし」

言って気付いた。
きっとあたしの怒りの感情を、お母さんと桔梗お姉ちゃんが押さえてくれていたのだろう。

あたしが怒る前に、励ましてくれた。
勇気を貰った。

同時に、『あたしは明日を頑張ろう』と教えてくれた。

「それが、やり返さなかった理由ですか?『励ましてくれる人がいるから、その人に答えよう』とか、そういう理由ですか?」

小緑は一体何を言っているのだろうか。
なんでいつもそんな事を考えているのだろうか。

と言うか、考えすぎじゃないだろうか。
あたしが中一の時は生きるのに必死だったというのもあるけど、そんな事を考えたことはない。

「あの頃は生きることに必死だったし、自分の居場所を守ることしか考えていなかったから。『逃げよう』とか、『戦おう』なんて思ったことなかったかも。ただ辛い日々に耐えるだけというか。それに何度も転校したけど、変わらなかったし。『逃げても意味ない』って分かったし。毎日自殺することばっかり考えていたかも」

目を丸くして話を聞く小緑を見て、あたしは続けた。

「それに、今になって思う。自殺しちゃえば楽だけど、『それを乗り越えたら何かあるのかな?』って。まあでもさっきも言ったけど、その時はそんなことを思う余裕なんて無かったけどね。でも乗り換えた結果、シロさんと杏子さんに出会えた。それで茜や紗季やアンタと橙磨さんに出会った。最後は家族に入れて貰ったんだよ。これ、どう見ても幸せな人の人生じゃない?自殺しなくて良かったって、心の底から思うよ」

そう言って、あたしは再び誰かに支えられているのだと気が付いた。

同時にもう一つ。この子は『仲間』に頼らな過ぎる。
一人で生きてもいいことないし、そもそも『人間は一人じゃ生きていけない』って小緑に教えたい。

その考えは間違っている伝えたい。

そしてそのあたしの言葉に、小緑は小さく頷いてくれた。

「ですよね。目の前の出来事から、逃げちゃ駄目ですよね」

逃げちゃだめ。
確かにそうだけど、やり方も考えなきゃね。

逃げずに戦っても、『鬱』になる可能性もあるし。
逃げないことが全て正しい訳じゃないし。

だから、あたしは一つの例を挙げてみる。