自分の部屋のベッドの上に座る小緑は、今までに見たことのない表情を浮かべている。ゲームに怒ったり、あたしに話し掛けているが、数日前とは別人のような小緑だった。

まるで『山村小緑』という人格がぽっかり抜けて、無理矢理『山村小緑』を演じているような気がした。
なんだか、少し前の自分を見ているような気分だ。

そんな小緑はあたしの問い掛ける。

「ねぇ樹々さん。憎くて憎くて、殺したいと思うような奴を助けたいと思ったことありますか?」

「えっ?」

さっきまでゲームの話をしていたから、ゲームの中の台詞かと思った。
だから適当に流すように答えようと思ったけど、その小緑の真剣な眼差しに『嘘は絶対に許されない』と感じた。

まるであたしという人格を試されているような・・・・。

「えっと、ない・・・かも」

どんな解答を小緑は期待していたのかは分からない。
でもその言葉の矛先は瑠璃だということは何となく想像できた。
きっと小緑がいじめられていると理解しなかった理由は、相手が瑠璃だったからだろう。

昔から瑠璃の性格は悪かったと聞くが、『そんなことをしてくるような人じゃない』って、心の中で瑠璃を信じていたのだろう。

親友だったら相手ならなおさら。

確かに、もしあたしが茜にいじめられたとしても、『彼女はそんなことをしない』って。

実際に酷い事を目の前でされてもあたしは絶対に『茜はそんなことをするような人じゃない』って心の底から信じるだろう。

例え最悪の関係なっても、楽しかった過去の記憶がある限りは『夢』を見てしまうのだろう。
お互い笑いあった記憶は『心に記憶』されているから、簡単に忘れる事なんて出来ないし。

・・・・・・・。

と言うか、なんだろうこれ。
これ、何て言う気持ちなんだろう。

今の例え話を想像したら、物凄く気分が悪くなった。
目を逸らしてしまいそうになった。

これ、あたしだったら耐えられないよ。
『心から信じていた親友にいじめられる』なんて、本当に耐えられない・・・・・。

その時ふと茜の過去を思い出した。
そして同時に思った。

『小緑と瑠璃の現状、茜の過去に似ている』って思った。