あたしが紗季の家のインターホンを鳴らすと、玄関からパジャマ姿でマスクを付けた小緑が現れた。
風邪を引いているのだろうか。

赤く染まる彼女の表情に、あたしは少々不安になった。

でもその不安を吹き飛ばすような声が家の中から聞こえてくる。

「もう!こっちゃん勝手に動かない!風邪引いているだから寝てなさい!」

その妹を心配するようなお姉ちゃん・・・・いや、まるで娘を心配するお母さんのような紗季の言葉。
怒られた小緑はあたし達に何一つ言わずに部屋に戻って行く。

その直後、入れ替わりで今度はお姉ちゃんが現れた。
紗季は慌ててあたし達に笑みを見せる。

「いらっしゃい!ごめんね、急に呼び出して。面接後だと言うのに。と言うか樹々ちゃんお疲れさま!」

「ありがとう。それより・・・・・何しているの?」

その時、奥の部屋から大きな物音が聞こえた。
金属がぶつかるような、耳に響く大きな音。

例えば床に鍋を落としたようなそんな音。

そしてその後に聞こえる男の子の声。

「はっはーん、本当に下手くそだね」

呆れるような男の声は橙磨(トウマ)さんの声だった。
誰かをバカにしたような橙磨さんの笑い声。

それともう一人の人物の声が聞こえてくる。

「だって、料理なんてしたことないんだもん!お兄ちゃんに作っても『不味い』って言われるし。もう二度と作らないって決めたんだもん!」

珍しく声を荒げる彼女の声に、あたしは少し安心した。
茜だ。
何をやっているのか分からないが、彼女は『集中していた』ということは分かった。

この前シロさんカフェで働いた時に聞こえ元気な茜の声にそっくりだった。

ってか『集中している』ということは、彼女がピアノを弾いている時もいつもこんな姿なのだろうか。

感情表しながら茜はピアノを弾いているのたろうか。
想像したら少し面白かった。

一方で紗季は苦笑い。

「あーあの二人何やってるんだろ。機具壊さなければいいんだけど。とにかく上がって。樹々ちゃん達にも手伝って貰いたいから」

「手伝う?」

あたしが疑問口にしたら紗季は笑った。
可愛らしく、偽りのない笑みを紗季は見せた。