「ここが山村さんの家。僕らの家も結構大きいですけど、さらに凄いマンションですね」

「ほんと、羨ましい・・・・・」

目を輝かす瑞季の言葉に、あたしは知らない世界に来てしまったような変な気分になった。

紗季の家はお金持ちの家だと茜から聞いたことがある。

清掃のおばさんが毎日綺麗に掃除していそうなマンションのポスト。
エストランスは一流のアスリートや俳優が泊まりそうな高級ホテルにも見えた。

紗季のお父さんの『政治家』って職業、そんなに儲かる仕事なのだろうか。
お金に飢えて生きてきたあたしはまるでアレルギー発作のように、全身が痒くなったかのように身震いをした。

紗季の家の最上階を目指して、あたし達はエレベーターに乗り込む。

一度帰って着替えた為、あたしはお母さんに買って貰った私服に着替えた。
瑞季もお母さんやシロさんに選んで貰ったオシャレな服装だ。

瑞季の身長はあまり高くない。
男の子の中では低い方だ。

だが彼はお母さんに似たのか線は細く、スタイルが良くて何を着ても似合う。
なんでもない白のワイシャツだって瑞季が着ると、清楚でオシャレなモデルのような、とても可愛い美少年にも見えた。

両親のいい血を引いたなって、時々思う。

・・・・・・。

いや、違う。
瑞季は本当の両親に捨てられたのだった。

そんな大事な事すら、あたしは忘れようとしていた。

彼が家族に馴染み過ぎているからだろうか。
顔はお母さんとお父さんに似てはいないけど、瑞季にとってはそれは関係ない。

名前の『瑞季』は杏子さんと東雲さんが名付けた。
そこまで来たら彼は間違いなく『若槻家』の一員だ。

血の繋がりなんて、もう関係ない。
あたしもその血の繋がりのない一人だし。

向日葵はこの場にはいない。
一緒に連れていこうと思ったが、今日は向日葵が所属している『少年野球の練習の日』だと言っていた事を思い出した。

面接が終わって家に帰ったら、既に向日葵の姿はなかった。
今日は雨だと言うのに練習熱心な女の子だ。