「次の方どうぞ」

張り詰めた一室から聞こえた男性の声に、あたしは背中を押された気分になった。

大きなビルの一室にある面接会場。
あたしと同じように企業へ就職希望の高校生に大学生や専門学生などの学生が約二十人もいる。

緊張感に押し潰され不安な表情を浮かべている人。
緊張と言う言葉を知らないのか『早く自分の出番が来ないか?』と思っていそうな落ち着いた雰囲気の人もいる。

ちなみあたしは後者だ。
意外と緊張もしていない。

「失礼します」

ゆっくり落ち着いて、順番が来たあたしは扉を開ける。
扉の先には険しい表情を浮かべる面接官が三人。

だがその中で見覚えのある人もいた。
あたしをこの会社に誘ってくれたあたしの知り合いだ。

シロさんのカフェ会でよく会う話の面白いサラリーマンだ。
ちなみに集団面接じゃなくて、あたしだけの面接。

あたしの姿を見た彼は少しだけ表情が緩んだ気がした。
『面接さえ何事もなく終わったら内定を貰える』という美味しすぎる話、本当なのだろうか。

あたしは『信じる』と言う言葉を覚えたけど、ここで使っても良かったのだろうか?

でも今はあまりそんなことはどうでも良い。
落ち着いて、今は自分の事だけを考えて、一つ一つ練習してきたことを話す。

『名前』や『志望動機』や『将来どんな仕事がしたい』とか。
明確に大きくよく通るハキハキとした声で、あたしは話す。

・・・・・・・・。

結構集中できたから、面接はあっという間。
いつの間にかあたしは解放されていた。

そして面接が終わって鞄の底に眠っていた携帯電話の電源を付けたら、紗季から着信が来ていた。
慌てて電話をすると、『瑞季くんと向日葵ちゃんを連れて私の家に来てほしい』と言われた。

ってか『何で瑞季と向日葵も?』と疑問に思ったが、全く想像できなかった。
自分なりに考えてみたけど、面接からの開放感で何も答えは出てこなかった。

面接日だと言うのに、不運にも今日は雨だった。
秋雨が続くみたいで、今日から一週間は雨が続くと天気予報で言っていた。

その雨を遮るように、あたしと瑞季はビニール傘をさす。
向かったのは紗季の家だ。