「まず一人、明日の入学式中に一人は友達を作りなさい。それが出来るって言うなら、私はこの髪と別れる」

そのシロさん言葉を理解するのに、あたしは時間がかかった。
一つ一つ、シロさんの言葉の意味を考える。

「えっと、でも」

「どっちみち切るからそんな約束はしなくていいわよ」
だけどあたしが考えている最中、嘲笑うように杏子さんはシロさんの自慢の黒髪をバッサリと切った。
あまりにも衝撃的な光景に、あたしは目を逸らしてしまった。

って、・・・・え?

「きゃああああ!何やってるのよ姉さん!」

「言ってるわよね?『変にはしない』って。アンタも樹々ちゃんも、『騙された』と思ってたまには生きてみなさいよ。そう思ったら、人生案外楽しいものよ。特に樹々ちゃんはもっと人生楽しまないと。せっかく桔梗ちゃんが無理して働いて高校に連れてくれたのだから。そんなつまらなそうな顔を桔梗ちゃんに見せたら、張り飛ばすわよ」

そうだった。
あたしのお姉ちゃんは自らの高校生を断ち、あたしの人生に精を尽くしてくれているのだった。

朝から晩まで、死に物狂いで働いているのだ。

全てはあたしの為に・・・・。
桔梗お姉ちゃんは命を削っているというのに。

『なんであたしはいつも自分の事しか考えられないんだろう』って思ったら、頭を殴られたような頭痛が走った。

ホント、どうしてもっと頑張れないんだろう・・・・、あたしは。

「ブリーチって、姉さん何するの?」

「あーもう、うるさい。ハサミで脛動脈切るわよ」

「姉さん年々言葉つかいが酷くなっているわよ。あと、ちゃんと掃除するのよね?ってか普通にお客さん食事するが座る席で髪切るなんてありえないから。わかってるわよね?」

「もちろん。だからあんたが掃除するんでしょ?」

「辞めようかなこの会社・・・・。もうやだよこの副社長・・・・」

シロさんの姿は時間が経つ事にどんどん変わっていく。
自慢の長い黒髪も床に落ちていた。

そして別人のような凛々しい見た目のシロさんに、あたしは見とれていた。

同時にあたしは不安になった。
『綺麗な人は、何をやっても綺麗なんだ』って。

あたしが髪を切ったら、ただ気合いを入れている間抜けな女にしか見えないというのに。
誰も『綺麗』とか、『可愛い』とか言ってくれるとは思えない。

「さあ次は樹々ちゃんよ」

だけど、もう何も考えなかった。
ずっと目を瞑った。

まるでそのまま眠りにつくように。
もうどうにでもなれって、杏子さんを信じた。