確かにあたしの正直な気持ちは切りたくも、染めたくもない。
『そんなことしたら逆に『調子に乗っている』といじめられて、嫌な高校生活になったらどうするんだ』って思ったりもする。

・・・・・・・・・。

だったら、どうしてあたしは嫌と言えないのだろうか。

嫌と言えば、シロさんもあたしも髪を切ることはない。
嫌な思いをしなくてもいいはずだ。

「残念だけど美憂、私は美憂以上に美憂のことを考えているつもりよ。オープンしたばっかなのに全く売り上げないのは、この店を本当の責任者である私とあの人の責任。でもあと二年三年したら、この店はアンタの常連さんで溢れ返る店になってるわよ」

でもあたしが言えない理由をあえて上げるとしたら、きっと心の底で杏子さんの事を信じているからだと思う。
『この人ならあたしを任せても良いのかもしれない』って。

まるで娘の心を読んでいるお母さんのように。
あたしはどこか杏子さんを信用していたのかもしれない。

二人の会話は続く。

「姉さんがそう言う証拠は?」

「証拠ねぇ。残念だけどないわね。でもそうね、きっと樹々ちゃんが色んな友達をこの店に連れてきてくれるわよ。それだけは、私は心から誓える」

こんな事を顔色変える所か、瞬き一つしない真剣な表情で杏子さんは言えるんだ。
あたしが出来ないことを、杏子さんは成し遂げる。

そんな杏子さんにあたしは騙されたとしても、きっと納得するだろう。
『尊敬する杏子さんの言葉なら騙されたとしても、いつか自分の為になる』って。

そんなことをあたしは思っていた。

でもその言葉だけはイマイチ理解できない・・・・・。

「あたし、ですか?」

と言うか、なんであたし?
人を惹き付ける力は愚か、まともに人と喋った記憶すらないのに。

そんなあたしに友達なんか出来る訳がない。
でもそのあたしの考えを、杏子さんは一掃させる。

「そのためにイメチェンしようとしているの。今まで通りだったら、今まで通りの生活しか待ってないわよ。自分が嫌で変わりたかったら変わらないと。友達もチャンスも売り上げも手に入らないわよ。それに樹々ちゃんには人を惹き付ける魅力があるんだもん」

『あるわけない』と言い返したかった。
でも言い返そうと思ったら、背中を叩かれた気分になった。

突然シロさんはあたしの名前を呼ぶ。

「松川樹々!」

「はい!」

いつの間にか、反射的に私は返事をしていた。
そして覚悟を決めたようなシロさんの真剣な眼差しに、あたしは息を飲んだ。