「ほら美憂。早く座って。じゃないと樹々ちゃん寝れないでしょ?明日は入学式だというのに」

「まだお金数えないといけないし。先に樹々ちゃんからじゃ」

「ダメ!先にアンタが切らないと、樹々ちゃんも抵抗するでしょ?大丈夫。変にはしないから。まあ他人の髪なんて切ったことないけど。それにレジ閉めなんて、明日の朝早くから来たら済む話でしょ」

「そんなことくらい知っているわよ。ってか姉さん絶対に起きないじゃない!どうせ叩き起こしても、すぐに寝ちゃうんだし。結局私が一人で店の後処理しなくちゃならないんだから!」

「だってこの店の店長は美憂でしょ?私はそんなの知らないわよ。アンタの下で働く従業員じゃないんだから。むしろ上司なんだから」

「いや、上司だったら尚更ダメでしょ!パワハラじゃんか!ってかいきなり髪を切るとか、お客さんの樹々ちゃんを人質に取るような真似はやめてよ」

「給料上乗せするからいいじゃん」

「いや、そう言う問題じゃなくて・・・・。はあ・・・・」

ため息を吐いたシロさんは肩を落とした。
もう『何を言ってもお姉さんは聞いてくれないだろう』とでも言うように。

杏子さんの片手には髪型のカタログ集。
それと机の上に置かれた毛染めの道具が一式。

どうやら杏子さんは本気らしい。

何より杏子さんはシロさんの話を全然聞いていない。
その無視する姉の姿に、妹のシロさんはに限界を感じたようだった。

突然席を立つシロさん。

「あーもう。早くしてよ!」

シロさんは長い黒髪を揺らして、呆れた表情で私の隣のカウンターの一席に座った。

「諦めたの?もっと粘ってもいいのに」

「いや、ここで逃げても朝起きたら髪の毛が切り落とされていると思ったからよ。私の中学生の頃の悲劇、忘れたとか言わせないわよ」

「ん?そんなことあったっけ?」

「髪切りたくないって言ったらアンタ、寝ている私の髪を滅茶苦茶に切っていたじゃないの!男の子並のベリーショートみたいに。本当に死のうかと思ったわよ。恥ずかしかったから、今もこうして髪を伸ばしているの」

「似合うからやったのよ。悪い?」

何を言っても無駄な姉の姿に、シロさんの表情が歪んだ。
一方で杏子さんはこの雰囲気を楽しむように笑っていた。

まるで妹をバカにするように。

「姉さんはもうちょっと人の気持ちを考えてよ。樹々ちゃんだって嫌なんでしょ?」

そのシロさんの言葉に、あたしはようやく気が付いた。