「樹々ちゃん可愛いけど地味だもん。派手さがないと、高校生だったら周りから舐められるわよ」

高校の入学式を翌日に控えた夜の遅い時間。
隣にいる杏子さんのその言葉に、あたしは困惑していた。

元々地味な存在だったし、いきなり高校生デビューしても引かれるだけと言うか・・・・・。

当時のあたしは伸びきった手入れしていないボサボサの黒い髪。
髪を切りたくても切りに行くお金なんて無かったし、自分で切ろうとしても変になるから触らなかった。

でも一番は髪型なんてどうでもいいと言うのが本音。

今もそうだが、当時のあたしはおしゃれと言う言葉を知らなかった。
洗濯して、乾いていた服を着る生活を繰り返す、ファッションという言葉には無縁の生活。

『そんなことにお金を使ってどうなるんだろう』って。
同じ年くらいの少年少女を見ていつも思っていた。
杏子さんは続ける。

「美憂、アンタも一緒に切って染めなさい。そうしたら樹々ちゃんの抵抗は少しなら薄れるでしょ?」

そういえばシロさんも今と二年前では見た目が大きく違った。
今では金髪にショートヘアーの彼女だが、昔は真っ黒なストレートヘアーだった。

仕事中はよく髪を束ねて、とても厨房で料理を作る料理人には見えないほど綺麗な髪だったっけ。

シロさんはもちろん抵抗する。

「いやいや姉さん。私が中学生から伸ばしているの知っているでしょ?」

「だから言ってるの。その長くて妖怪みたいな気持ち悪い髪型、切って丸坊主にしてあげるのに」

「いや、自分の主観で妹の人生ぶっ壊すようなこと言わないでよ。あといくら妹だからって暴言吐いていい理由にはならないからね」

「いいの。ほら、ハサミ持ってきて。じゃないとアンタの大切にしている包丁で樹々ちゃんの髪を切り落とすわよ」

「いやいや、なんか私がとんでもない大罪犯したような雰囲気で言わないでよ!ってかよくないし、樹々ちゃんを人質にしないでよ!」

その恐ろしい姉妹の会話は、シロさんのカフェでの出来事だった。
夜の営業を終えて、今日の売り上げ額を計算している時に起きた出来事だ。

テーブル席に座りながらお金の計算をするシロさん。
そしてカウンター席に座るあたしと、後ろからあたしの汚い黒髪を触る杏子さん。

確かこの日は『明日の入学式を松川樹々はどうやって乗り越えるか』という変な会議をしていたんだった。

結果がさっきの恐ろしい杏子さんの言葉・・・・。