『オンナオトコの若槻瑞季』

『若槻瑞季死ね』

『山村小緑ちゃんに恋する若槻瑞季くん。二人で昨夜ヤっちゃいました!笑』

誰にも読めるような大きな文字で、黒板は被い尽くされていた。
他にも瑞季の心が痛くなるような言葉か書かれている。

誰が書いたのだろうかと、僕の心が痛くなるのと同時に、僕の中で怒りが込み上げてくる。

でも何より僕が心が痛めたのは、悪口が書かれている黒板を瑞季が見ていた事だった。

「えっ、えっ?」

まるで知らない国に来てしまったような、迷子のような瑞季の表情。
目の前の言葉も読めば直ぐに理解できるのだが、それを受け入れたくないために違う国の言葉にも見えたのだろう。

その絶望に満ちたような瑞季の姿を見て、僕は耐えきれなくなった。

僕は慌てて黒板消しでふざけた文字を消した。
他の生徒も助けてくれるのかと思ったが、彼らは文字を消す僕の姿をただ見ているだけだった。
まるで感情のない機械のように・・・彼らは無言だった。

でも僕の存在を嘲笑う奴もいる。
「小緑ちゃんは優しいね!さすが恋人って言うか。彼氏がいじめられていたら、普通は怒るもんね」

無言の教室から聞こえる女の声に、僕は限界を超えた。
持っていた黒板消しを、彼女に目掛けて投げつけた。

でもそれは体格のいい男子生徒に、まるでボディーガードの役割のような砂田恵介が片手で受け止めた。
そしてその黒板消しを直ぐ様大村瑠璃に渡すと、僕に向かって投げつけてきた。

僕の悲鳴と共に、教室の一角から大きな笑い声が聞こえた。
真っ白にチョークの粉で被い尽くされた僕を見て、瑠璃は笑っていた。

でもそんなふざけた瑠璃を見た僕は、瑠璃に向かって飛び掛かった。
笑って前を見ていなかった瑠璃は一瞬驚いた表情を見せたけど、すぐに瑠璃も拳を握る。

そしてノーガードの殴り合いが始まった。
お互い拳を作って、お互いの顔や体を殴りあった。

どうして瑞季がいじめられているのか、僕は理解が出来なかった。
瑠璃とは何の接点もない。

小学校も違ったし、二人で話している所も見たことない。

なのにどうして?
意味が分からないよ・・・・。

考えれば考えるほど、訳が分からなかった。
頭の中が滅茶苦茶になった。

滅茶苦茶になって我を忘れたら、お約束の時間がやって来た。

「山村!大村!やめろ!お前らいい加減にしろ!」

僕達は大人の力によって引き離された。
睨み付けるようなお互いの表情。

でも僕の怒りは収まらない。
『コイツだけは今すぐここで八つ裂きにしてやりたい』と、その思いだけで僕は先生達に抑えられても暴れ続けた。

その後の事は覚えていない。

怒り狂った僕を待っていたのは、『生徒に暴力を振るったとして一週間の自宅謹慎』という処分だった・・・・・。

学校側から見た僕は、『悪者』らしい・・・・。