「やり過ぎ、とは思っているわよ。アンタには悪いかもしれないけど、身体障害者殴ってはダメなことぐらい常識で知ってるわよ」

「そう」

「あー、なんか自分を守るために言うようで悪いけど、そのしつけはあの人が考えたの。 殴ってでも紗季には間違った人生を歩んでほしくないって」

「だったら小緑だけは殴らないで。お願いだから、あの子のやりたいことをやらしてあげて!」

力強く訴えるお姉ちゃんの声に僕は頭を抱えた。

まだ十八歳だというのに、どうして口を開けば妹の僕の事を話すのか。
ある意味、親よりうるさかった。

そしてその僕の疑問は、母も同じみたい。

「なんで紗季はいつも小緑を庇うの?お姉ちゃんとして?それとも他の理由?」

母の大きなため息を吐く声に、お姉ちゃんは間を置いた。
同時に僕の中で嫌な予感が漂った。

「小緑ね、学校でい」

「ただいま」

嫌な予感がしたから、僕はこの話題を終わらせようとした。
強引に二人の話題に『待った』をかけた。

当然お姉ちゃんは驚く。

「こっちゃん!いたの?いつの間に?」

「今帰った。図書委員の仕事で遅くなったから」

『帰ったら手荒いと嗽をしなさい』と、嫌でも染み付いた言葉を実行した僕は、何も用意されていない食卓を見て呟いた。

「ねぇお腹すいた。早くごはんしよ」

そう言って僕は台所の食器棚から晩ご飯の食器を並べる。
その姿を見たお姉ちゃんは『私も準備をすると』言っているように立ち上がったが、僕は直ぐに再び座らせた。

まるで『病人は黙って座って見ておけと』言わんばかりに。
一方のお姉ちゃんは頬を膨らませて怒っていた。
そして『早く食べたい』とお腹を空かせる娘の姿を見た母は、呆れた表情で晩ご飯を仕上げた。

今日はカレーみたいだ。
お姉ちゃんの体を気にして作る病院食のような薄味の母の料理は、あまり美味しくない。

一方で昨日の瑞季のお父さんの料理はすごく美味しかった。

同時に樹々さんや瑞季は本当に『幸せな家庭に囲まれている』のだと、ふとそんなことを考えてしまった。