不気味にも見える真っ赤な夕日に染まる下駄箱に向かうと、いつもの出来事が待っていた。

僕の靴がない。

最近は取られると分かっているため、学校指定の靴ではなくて安いスニーカーで学校に来ている。
だけどそのスニーカーがまた見当たらない。

僕はため息を吐くと、ふと瑠璃の顔が浮かんだ。
また瑠璃の嫌がらせだろう。

『いい加減にしてくれ』と怒りを覚えると同時に、自分を宥める。
『仕方ない』と、僕は履いていた上履きで校舎を出た。

もう冬のような涼しさを越えて寒いと感じる気候に、僕は身震いをした。
足元が冷えているからだろうか。

校舎を出て少し歩いてからふと周囲を振り返ると、瑞季の姿がない。
僕は足を止めて、再び校舎の下駄箱に視線を映した。

そこには自分の下駄箱を見ながら今にも泣きそうな瑞季の姿があった。

「瑞季?どうしたの?」

その僕の声を聞いた瑞季は自分の涙を制服の袖で拭った。
そして急いで上履きのまま、僕の元まで駆け付けた。

「す、すいません!何でもないです!『今日上履きで学校に来た』ってこと忘れてました」

その笑って誤魔化す瑞季の言葉に、瓶で頭を殴られたような激しい目眩が僕を襲った。

なんだろう、これ。
なんだろう、この頭が割れそうな激しい頭痛は。

こんなの初めてだ。

いや、これは確か二回目。
小学五年生の時も同じ思いをした記憶がある。

確か麦がいじめられていた時。

どうして瑞季を見て、あの頃の記憶が蘇るのだろう。
犯人は見つかって反省して、麦と言う一人の少年を犠牲にクラスの盛大な苛めは幕を閉じたのに。

終わったはずなのに。

この頭痛がなんなのか、今の僕には正直言って分からなかった。
どうして瑞季を見て麦が脳裏に浮かんだのか、全く理解できなかった。

わからないから、考えるはやめた。
それから僕達はそれぞれの帰る家を目指した。
一緒に帰っているが、お互い言葉はない。

嫌でも聞こえる不気味なカラス鳴き声を聞きながら僕達は歩いた。

『明日の授業はなんだったっけ』

そんな一言を言うだけで少しは会話できると思うのだけど、どうも瑞季の辛そうな表情を見たら声が出てこなかった。
僕も自然と元気がなくなる。