放課後になった。
部活なんてしていないが、今日はすぐに帰るわけにはいかないのが現状だ。

どうして僕が図書委員の仕事なんてやっているのか理解できなかった。
僕自信全く覚えていないが、気が付いた頃には図書委員に任命されていた。

『やりたい』なんて一言も言っていないのに。

僕ら図書委員しかいない図書室で、僕は同じ図書委員の上級生と一緒に返却された本を元の位置に戻していた。
図書委員の仕事を始めてもう半年近くなるが、僕は全く仕事を覚えていない。

先輩に指示を受けながら、僕は何も考えずに動き続けた。
まるで昨日のカフェで働いた時と同じだ。

「山村さん、もう帰っていいよ」

優しい気遣いなのか、邪魔なのかわからない上級生の声に、僕は小さく頷いた。
特に挨拶はせずに、急いで図書室を後にする。

だけど、僕はすぐには帰らなかった。
茜さんと同じブレスレッドを自分の席の引出しに置いてきてしまったから、僕は一度教室に向かう。

『早く帰りたい』と思う一心で、僕は夕日に染まったオレンジ色の廊下を走る。
素早く階段を駈け上り、教室に向かった。

遅い時間だし、もう誰もいないと思った教室に、見覚えのある男子生徒がいた。

そして僕は疑問に思う。

「ちょっと、何やってるの?」

教室に着いて僕は思わず声を荒げてしまった。
僕の机で何か作業をしている男子生徒がいたからだ。

彼は慌てて否定する。

「あっえっと、ごめんなさい!変な意味はないです!」

その震えるような声を聞いて僕は彼の名前を思い出そうとしていた。
女にも見える顔立ちと女々しい男の子。

誰にも腰が低い弱々しい彼の名前は、若槻瑞季(ワカツキ ミズキ)だったはず・・・・。

そういえば昨日の夜にカフェに来ていたっけ。
樹々さんの弟って聞いたことがある。

「掃除?一人で?」

瑞季の持つ雑巾を見て彼の行動を想像してみた。
だけどどう考えても僕は理解できなかった。

帰りのホームルームはもう二時間以上前に終わっている。
『一人で二時間も教室の掃除をしていたのか』なんて思ったが絶対に違う。

瑞季は部活も委員会も入っていないし。

「う、うん。先生にも頼まれて・・・・」

瑞季の游ぐ目を見て、やっぱり彼が嘘をついていると言うことはすぐにわかった。
それに母が意識不明の重体だというのに、そんないい加減な指示をする教師がいるとは思えない。

「そうなんだ、ありがとうね」

だけどそれを問い詰めても、何の意味になるのだろうか。
深い理由なんてどうでもいい。

興味ない。