僕は怒られると思ったが、生徒指導部の熟年の女教師はどうでもいいような表情を浮かべて、僕に質問をしてくる。
まるで機械のように僕が答えたら次の質問。

一言で言うなら不気味だった。
まるで『余計な仕事を増やすな』と別の意味で怒られているような気がしたから。

でも感情はない。

「山村さんは大村さんに呼ばれたから行ったの?」

「はい」

めんどくさいから携帯電話の事以外は嘘を付かなかった。
嘘ついてバレたらそれこそめんどくさい。

詳しい詳細を言わず、『はい』か『いいえ』で答える。
呆れ返るような僕の返事に先生は何一つ文句を言わずに面談は終わった。

こんなので良かったのだろうか。
もうすぐ授業も始まる。
僕は急いで席を立って、生徒指導室から出ようした。

ふと目に入った隣の面談室では、大人しい砂田と不機嫌な態度の瑠璃が男の先生と面談を行っていた。
何を話しているのか、正直言って興味がなかった。

僕に関わらないでほしい。
それだけで僕は今は満足だ。

自分の中では瑠璃とは縁を切った。
二度と僕の目の前に現れないでほしい。

それと僕が携帯電話を持っていることを先生に言わなければ満足だ。

でも・・・・・・。

「よっ山村。携帯電話は担任に預けるのが普通だぞ」

「なっ!?」

気が抜けた直後、僕は驚いた表情で目の前の男の先生を見ていた。

確か僕のクラスの国語の烏羽(カラスバ)先生だ。
おもしろ可笑しい先生の授業は生徒からも人気がある。

それと『腹黒さ』も兼ね備えた先生だ。
烏羽先生の授業で居眠りすると、その生徒は酷く恥をかくことになる。

黒板に居眠りしている生徒の名前を書き、みんなの笑い者にされる。
ある意味頭のおかしい先生だ。

生徒はみんな烏羽先生の名前の通り、『人に害を与えるような、カラスのような先生』だと噂していた。

『カラスが鳴いたら気を付けろ。烏羽先生に名前を呼ばれたら気を付けろ』。
それが生徒の中での暗黙の言葉だ。

そしてそのカラスに目を付けられた僕は真っ青な表情に変わっていく・・・・・。

「ほれ、ブレザーの内ポケット。さっきの面談中、やたらとその内ポケットを気にしていたのはどうしてだ?」

『もしかしたら、『僕が携帯電話を持っている』と話を変えられたら嫌だった。
無意識に気にしていた』なんて言えるわけがない。

だからこそ烏羽先生の、まるで楽しんでいるような不気味な笑みに僕は強気になって睨み返した。

でも内心、カラスのような真っ黒な翼にも見えるその影に、僕の心が震えていたのは事実だ。

そしてこの先生は他の先生とは全然違う。