「麦、どこ行ったか知らない?マジで連絡とれないんだけど」

その懐かしい名前に、僕は不安になった。

金子麦(カネコ ムギ)。
今現在の、僕の唯一の同い年の友達だ。

そして本気で僕を庇ってくれた親友。
馬鹿みたいに真面目で、まるで正義のヒーローのような奴だった。

困っている人が居たら誰が相手でも助けるし、ルールを守らない奴や悪い奴がいたら彼はどんな相手でも許そうとはしなかった。

そんな麦に関しては瑠璃と一緒で、『僕は何も知らない』と言うのが本音。
どこに行ったのか、僕が気になるくらいだ。

だから投げ捨てるように言葉を返す。

「知らない」

「本当に?」

「本当だって」

「本当は連絡とってんじゃないの」

「は?意味わかんないし」

僕は驚いた。
いつの間に瑠璃は僕の背後に居たのだろうか。

全く気配が無かった。

そしていつの間にか、制服のブレザーの内ポケットに隠していた携帯電話を奪われた。

って、マジふざけんな。

「ちょ、返せ!」

「学校に携帯電話持ってきたら先生に預けなきゃ駄目なんだよ。なんで持ってるの?もしかして不良?」

誰もいないが、まるで誰かに見せつけるように瑠璃は腕をあげて僕の携帯電話を高く上げた。
瑠璃は女の子の中でも高い方だし、一方の僕はお姉ちゃんと違ってあまり背は高くない。

僕は必死にその瑠璃の腕の先の携帯電話に飛び付こうとしたけど、まるで猫じゃらしに食い付く猫のように僕は無様な姿だった。

「ふーん、本当に麦の連絡先知らないんだ。まあいいや。ってかなにこれ?誰?この無愛想な女」

その瑠璃の言葉に、ふと茜さんの顔が脳裏に浮かんだ。
と言うよりコイツ、本気で僕の携帯電話の中身を見ている。

隠すものはないが、平然な顔でそんなことをするなんてありえない。

「勝手に見るな!」

「へぇー。小緑、水族館に行ったんだ。楽しそうじゃん。ってかなに?あんた達一緒のブレスレッド付けてんの?何?女同士で付き合ってるの?きっしょ」

きっと茜さんと一緒に行った水族館の写真を見ているんだろう。

そしてその写真に写る茜さんと今も僕が付けているブレスレッドは、僕が茜さんとお姉ちゃんにプレゼントしたものだ。
お姉ちゃんは『大切に使いたい』と言って全く付けようしなかいが、茜さんは昨日も付けてくれていた。

と言うか、だったらなんだ?
もし女同士で付き合ったとしたら悪いか?

そんなのその人の勝手だろうが。
他人が口出ししてくるんじゃねぇよ!

それに、茜さんを『無愛想な女』とか、お姉ちゃんを傷付けるようなことを言う奴は、絶対に許さない!