「何飲まれますか?」

城崎さんの言葉に、栗原先生はメニューを確認。

「そうだね、俺は紅茶にしようかな。暖かいのでお願いします。ハルは・・・・アイスコーヒーとアイスティーどっちがいい?」

「えー、ジュースがいいな」

「はいはい。んじゃオレンジジュースと、リンゴジュース。それとパインジュースもあるけど?それともグレープフルーツジュースの気分?」

「そうね、グレープフルーツジュースにしようかな」

「んじゃ、グレープフルーツジュースでお願いします。それとグレープフルーツジュースにはストロー付きで」

栗原さんの言葉に城崎さんは笑みを見せる。

「はい!食べ物とかどうされますか?」

「んー、んじゃ茜ちゃんのお勧めの料理にしようかな」

なんで私の名前が出てくるんだと、私は栗原先生を睨んだ。

栗原先生も私の視線に気がついたのか言葉を続ける。

「そんな怖い顔してたらモテないよ。今日はお昼何か作ったの?」

そう言われて言葉に詰まった。

と言うか何も作ってないし。
ただお皿並べただけだし。

答えは一つだけど、言ったら笑われそうだから無視しようかと思った。
でも調子の狂う栗原先生が相手だからか、私は『目の前にも天敵がいる』と言うことをすっかり忘れていた・・・・。

「今日はドリア落としちゃったもんね。お皿も割っちゃったし。それも二つ。あのお皿高かったのにな。耐熱皿だし」

その城崎さんの言葉に、私の顔は真っ青に変わる。

「あれは、その・・・・・・。すいませんでした」

言い訳したところで怒られると思った。
『六番テーブルが分からなかった』なんて言ったら『なんで席番覚えていないの?』って言われそうだったから。

てか落ち着いた今だからこそドリアの件で怒られると思ったのに・・・・・。

「そういえば火傷は大丈夫?水ぶくれになってない?」

でも城崎さんは怒らない。
理由は分からないけど、いつも私の事を一番に心配してくれる。

それはそれで、とても怖いと思ってしまう自分もいる。

「は、はい。城崎さんがすぐに冷やしてくれたので。ありがとうございます」

本当に思う。
怒ってくれた納得するのに。

『なんで出来ないの?』って言ってくれたら、私は成長するかもしれないのに・・・・。

そういえば隣の二人もそうだ。
私はまだ先生達に怒られたことはない。

どれだけ下手くそな演奏をしても、いつも慰めてくれる。

栗原先生が言った三年前の出来事もそうだ。
散々な演奏して泣き続けた私を、二人はずっと慰めてくれた。

『また頑張ればいい』とか、『今日の悔しさを忘れなかったら、絶対にいい演奏が出来る』って言ってくれた。

本当に、二人にはいつも慰めてもらってばっかり。

でも今は敵だ。