「あれ、茜ちゃん?ここによく来るの?」

振り返ると、そこには私のピアノ講師の先生が二人立っていた。

私は舌打ちと共に言葉を返す。

「なんでこんなに来るんですか?私の邪魔しに来たのですか?」

「まあまあ。ハルもいっしょだから良いでしょ?」

「うう・・・・。じゃあ仕方ないです。栗原先生は嫌いだけど・・」

流石と言うべきなのか。
私に馴れ馴れしい彼の隣にいる女性は世界ても有名なピアニスト。

彼女が来店してきただけで、店雰囲気は慌ただしくなる。
『本物の?』や『あの人有名なピアニストじゃね』とか、『なんでこんな所に大石春茶が来ているのとか』とか、『あの隣のイケメン男は彼氏か?』など。

あちこちの客席から私の先生の名前を呼ぶ声が聞こえた。

まあでも、数年前までテレビにも何度も出演していたから、仕方ないよね・・・・・。

そしてその彼女はと言うと、私に笑顔を見せてくれた。
相変わらず目線はあっていないけど・・・・。

「こんばんは、茜ちゃん」

「こ、こんばんは」

彼女の名前は大石春茶(オオイシ ハルチャ)先生。
目の見えない『盲目天才ピアニスト』で、私が通うピアノ教室の先生だ。

底知れない前向きな春茶先生は、私が一番尊敬している人物。

そして隣の背の高い男性は、栗原律(クリハラ リツ)先生。
春茶先生と同じく私のピアノ教室の先生なんだけど、私の天敵でもある。

私を困らせることを常に考えている、お兄ちゃんのような存在の先生だ。
ホント、いつかやり返したい。

その栗原先生は、早速私に攻撃してくる。

「茜ちゃん、俺に挨拶は?まだ聞いていないんだけど。挨拶しなきゃダメだよ?そんなんじゃどこにも就職できないよ?」

・・・・黙れ。

「うるさいです。春茶先生はともかく、栗原先生は帰ってください。嫌いです」

栗原先生は笑う。

「そんなこと言って、本当は俺のことが好きなくせに。前のコンクールで散々な演奏した時は、真っ先に俺に飛びついて号泣していたくせに。あの時の茜ちゃんは可愛かったなー。もうかれこれ三年前だっけ?」

はい、ぶん殴る。

「うっさいです!だから栗原先生は嫌いなんです!ってかもう絶対にゆるさない!表出ろ!」

「おっやるか?」

前々から『この馬鹿を懲らしめてやりたい』と思っていた。
いつもいつも私を攻撃してくるし、害虫のような存在だし。

ホントにムカつく。

でも私には味方がいる!
害虫駆除のプロがいる!