夜の営業開始時間である五時になっても私達は帰らなかった。
みんなの目は覚めているけど、体が重かったのだろう。

この後に『遊びに行こう』なんて思う人は居なかった。

私達はお客さんとしてカフェに残った。
私と紗季と小緑はカウンター席に座って、仕事をする城崎さんと話していた。

内容は紗季の恋愛の話。
紗季は終始動揺していた。

『好きな人はいない』って前に言っていたのに、どうしてそんな恥ずかしそうな表情をするんだろうと私は思った。

小緑はあまり輪の中に入るのが苦手なのか、一人で携帯ゲーム機で遊んでいた。
その表情はとても楽しそうにゲームをする中学生らしい表情。

突然ゲームに怒ったり、敵を倒したのか喜んだり。
とても楽しそうだった。

でもさっきの話を聞いたら、『その表情も全て嘘なんじゃないか?』って、私はそんなことを思ってしまった。
たまに見せる寂しそうな小緑の横顔に、私も辛くなる。

一方、橙磨さんは夜の営業も手伝っていた。
厨房の中で東雲さんと仕込みをしているらしい。

樹々も橙磨さんと同じだった。
厨房で橙磨さん同様にお父さんの手伝いをしているみたいだ。

時より彼女の元気そうな声が厨房から聞こえてくる。
姿は見えないけど、私と違って変な声を出していないから凄いと感心してしまった。

私も手伝おうかと思ったけど、『今は小緑の隣にいてほしい』って城崎さんに強く言われた。

紗季が言うには、私は昨日の一件から小緑にかなり信用されているみたいだ。
『勉強を見てあげる』と言ったからだろうか。

六時になると、アルバイトの大学生も来て、城崎さんと料理を運んでいた。

昼と比べて忙しくはないが、予約の団体客や家族で来るお客さんが次々にやって来る。満席とはならないが、それなりに忙しそうだと思った。

そんな中、見覚えのある人が来店してきた。

同時に、世界で一番嫌いと言っても過言ではない声が聞こえてくる・・・・。