ルビコン

翌日から小緑はいじめられるようになった。
小緑の机には酷い言葉の落書き。

教科書やノートは捨てられ、上履きも隠され、毎週のように新しい上履きを買わされた。

その一方で、麦は小緑に声を掛けてくれた。
友達として、『小緑をいじめる奴を許さない』って。

いつも一緒にいる瑠璃も手伝ってくれた。

だが状況は収まらず悪化する一方だった。
麦達が助ければ助けるほど、まるで嫉妬するのように小緑のいじめは酷くなる。

でもある日、小緑へのいじめが止まった。
まるで最初から小緑はいじめられていなかったように・・・・・。

・・・・・。

いや、止まってはいない。
いつの日か、小緑へのいじめは麦に移っていた。

標的が小緑から麦に変わっただけ。
小緑を庇った麦は酷いいじめを受けるようになった。

今まで小緑がされたいじめと全く同じやり方で・・・・・。

麦の感情は一瞬で奪われた。
正義感が強くて、明るくて真面目で楽しいことが大好きだった彼は、絶望に堕ちた。

酷く落ち込む姿の麦は、別人のような変わりようだった。

そんな麦を庇ったのは瑠璃という女の子だった。
瑠璃は昔から麦の事が好きで、いつも彼の側に居た。

今では言葉の知らない生意気なクソガキだけど、二年前は男の子に恋する普通の女の子だった。
イタズラの好きな、明るい女の子。

でもその女の子の人格が、突然破壊された。

確かに瑠璃は麦や小緑のいじめを止めようとしていた。
泣きそうな二人を庇うその姿は、まるで正義のヒーローそのもの。

でもその彼女の行動は、あまり褒められるものではなかった。
麦へのいじめを見ると瑠璃は狂ったように暴れだし、すぐに先生が止める日常。
暴言や暴力は当たり前。毎日学校の生徒は、瑠璃を見て悲鳴を上げていた。

二人をいじめようとした犯人と思われる人物に、瑠璃は表情を崩さなかった。
まるで獣のような、心を失った人間の瞳・・・・。

友達の小緑がいじめられていることで心を痛め、更に大好きな男の子までいじめられた。
最悪とも言える環境に、まるで『世界は自分の敵』だと言うような瑠璃。

そんな瑠璃は犯人を突き止めた。
毎朝黒板に書かれる麦の悪口を書く犯人を、瑠璃は朝方から教室に張り込んで捕まえた。