「あーうっさいな。早く作ってこいよバーカ」

なのに、どうしてこんなことを言われるのか理解できなかった。
金髪の少女の品のない大声に、周りのお客さんも驚いていた。

樹々は何が何だかわからない表情を浮かべて、小さく謝っていた。
そして急いでオーダーを知らせようと戻ろうとしていた。

でも女の子の声に樹々の足が止まる。

「ってかさ、小緑いるよね?ちょっと呼んでよ。遊びたいから」

その少女の顔は不気味な笑みを浮かべているように見えた。

樹々は少女に確認する。

「えっと、小緑の知り合いですか?」

「うっせぇな。早く連れてこい!」

樹々の声を書き消すような少女の声に一組のお客さんは嫌な予感がしたのか、慌てて会計を済ませた。
少し嫌な顔を浮かべて、お客さんは出て行く。

静まり返る有線放送しか聞こえない店内で、樹々は泣きそうな表情になっていた。
城崎さんも助けに行きたいが、別のお客さんの会計に手を取られている。

でもその時、名前を呼ばれた小緑はお客さんののいるテーブル席に向かった。
そして少女を睨みつける。

「なに?」

一方で樹々は急いで厨房に戻ってきた。
こんな状態でも樹々は悔しさを噛み殺すような強引な笑顔でオーダーを告げた。

って無理しなくていいのに・・・・・・。

客席での二人の会話が始まる・・・・。

「小緑何やってるの、バイト?頭おかしいんじゃないの?『中学生はバイト禁止』って知ってる?」

「だからなに?なんのよう?」

直後、金髪の少女から舌打ちが聞こえた。

「小緑さぁ、嘘つくのやめてくれない?視聴覚室のガラス割れたのあたしのせいになっているんだけど。あんたが先生に言ったんでしょ?それで『弁償しろ』とか『親呼び出す』とか言ってるんだけど。あたし、やってねぇつうの」

「は?なんの話?視聴覚室のガラス割れていたの初めて知ったんだけど。知らないのに言える分けないじゃん」

「お前あたしの隣にいたじゃん。よくそんなバレバレの嘘つけるな」

「はあ?だからなんのこと?」

何の話しているのか、話している二人以外はよく分からない。
でも『まともな会話じゃない』ということはすぐに分かった。

そして昨夜の紗季の言葉を私は思い出した。

『小緑、学校でいじめられているの』
嘘だと、その言葉だけは夢の中の会話だと、今までそんなことを思っていた。

理由は単に信じたくなかったから。
目の前で笑みを見せてくれる女の子が、いじめを受けているなんて考えたくなかったから。

だけど、もしそれが今私が見ている光景がそれだったら?
小緑が目の前の二人に、いじめられているのだとしたら?