ルビコン

更衣室の中で、辛そうな表情の紗季が横たわっていた。
そしてその紗季の隣に、私は座らせられた。

城崎さんも慌てて更衣室から出ていく。

幸い私は左手の親指の火傷だけで済んだ。
城崎さんがすぐに氷を当ててくれたから、酷くなることないだろう。

でもみんなの足を引っ張ってしまった。
私が落としたお皿は割れてもう使うことができないし、橙磨さんにまた迷惑を掛けてしまった。

東雲さんも城崎さんもオーダーが溜まっているのに、お客さんより私の事を優先してくれた。

普通ありえないよ。

それに、どうして私を怒らないんだろう。
普通だったら、『何やってるんだ!』って怒られるはずなのに。

お客さんや作った人に迷惑がかかっているっていうのに。
いっそのこと、怒ってくれたら納得するのに・・・・・。

紗季には悪いけど、ここは仕事が出来ない人が集まる空間。
まだ満席でオーダーも終わっていないと言うのに、そんな時間に休めなんて考えられないし。

それになんだか遠回しに『戦力外です』って言われているような気がして、自分に腹が立った。
本当に悔しい。

そんな情けない私に、紗季が声を掛けてくれる。

「茜ちゃん?大丈夫?」

「うん・・・・。紗季こそ大丈夫なの?」

「私は大丈夫。よくあるやつだから、暫く横になれば治ると思うし。茜ちゃんはどうしたの?」

「料理落としちゃった。本当にダメだ、私。やっぱり迷惑しかかけていない」

言って思い知った。
本当にその通りだと。

何をやってもダメな私には、何を頼りに生きていけばいいんだろう。
一方の紗季は辛そうな表情を我慢して、私に小さく微笑む。

「最初はそんなものだって。元気出しなよ。って、離脱した私が言うのも変だけど」

励ましてくれる紗季の言葉。
だけど正直言って、今の私の心には響かない。

そもそも励ましてくれる意味が分からないし。

城崎さんや東雲さんは、お客さんより私を心配してくれた。

普通は逆だ。
私のことなんてどうでもいいのに、どうしてあんなに優しい言葉をかけてくれるのだろう。

そこが一番理解出来ない。

働く意味。
それはもちろん生きていくため。

働いてお金を貰って、私達は衣食住の維持を続ける。
結婚して子供が出来たら、その子供が大きなるようにもっと稼がなきゃならない。
でも、私にそんなこと出来るんだろうか。
もし兄や父の身に何か起きたら、私は一人で生きていけるのだろうか。

・・・・・・。

無理に決まってる。
絶対に無理だ。

私一人じゃ生きていけない。

そう思ったら情けない気持ちで圧し殺されそうだった。
私は一生、こんな気持ちで生き続けなければならないのだろうか。

情けないよね、私。
もう高校三年生なんだったらしっかりしないと。

葵や愛藍にも絶対に笑われると思うのに。

と言うか城崎さんに助けるために、私も頑張ろうと決めたのに。

頑張ることを諦めてどうするんだ私。

・・・・・・。

悔しい。
本当に悔しい・・・・・。

紗季には悪いけど、こんなところに居たくない。