ルビコン

一方の私はもどかしい気持ちで押し潰されそうになった。

私のミスで橙磨さんの動揺。
それと紗季の身体。

正直言って全く集中出来なかった。

なんとか東雲さんの指示を拾って行動してはいるけど、頭は追い付けてない。
自分の体だけが頼りで、自分を完全に見失ってしまった。

だから城崎さんからの初めて聞く指示に、私はその意味を理解できなかった。

「茜ちゃん!その料理運ぶの手伝ってくれる?」

「えっと・・・・・」

料理を運ぶ?

どこに?

・・・・え?

「茜ちゃん、そのドリア二つをお客さんの元へ運んでくれますか?」

その東雲さんの言葉で私はようやく気が付いた。

「あっ、はい」

目の前の完成した溜まった料理。
紗季が離脱した今、ホールが大変と言うこはすぐに理解できた。

私は目の前のドリアを二つ運ぼうとする。
グラタン皿は熱く、下の敷き板を持たないいけない。

だから慎重に、ゆっくり落ち着いて目の前のドリアを手に取った。

でもどこの席に持っていけばいいのかわからない。
城崎さんはレジでお客さんの対応に追われ、樹々はお客さん捕まってオーダー聞いている。

小緑は私と同じ表情を浮かべている。聞いた所で一緒だろう。

そんな私を再び東雲さんが助けてくれる。

「茜ちゃん、それは六番テーブルです。窓側の一番奥のソファー席です」

東雲さんの言葉に、私はようやく希望を掴んだ。
六番テーブル、その言葉だけを意識して私は厨房を出ようとした。

でも六番テーブルって何処なんだろう。

窓側の・・・・えっと、なんだっけ・・・。
テーブル番号が分からないから私は辺りを見渡した。
落ち着きがなく慌てていたから、熱々の皿が手があってしまった。

「熱っ!」

そしてお皿が割れる大きな音。
気が付いた時にはドリアを地面に溢していた。

床には橙磨さんが作ったドリアが二つ、無造作に落ちてしまっている。

・・・・・・・。

最悪だった。
結局私はみんなの足を引っ張るだけ。