「あっごめんなさい・・・・、間違えました」

気付いた頃にはもう遅かった。
その私の動き一つで、順調だった橙磨さんの動きが鈍る。

「やっば、焦げる」

「橙磨くん、落ち着いてください。ゆっくり、焦らないでください」

「はい!」

パスタを茹でる時間を使い、東雲さんはサンドイッチを作っている。
一方の私はようやくドリア皿の下に敷く木の板を用意した。
間違えてからかなり時間経っている。

「お願いします・・・・」

私の声を聞いた橙磨さんは慌ててオーブンを開ける。
だが同時に焦げ臭い香りと共に、黒くなったドリアが三つ仕上がった。

そしてそのドリアを見て、東雲さんは素早く指示を出す。

「橙磨くん、すぐに新しいドリア三つオーブンに入れてください。それはもう諦めましょう」

「すいません!」

その橙磨さんの申し訳ない表情に、私は胸が痛くなった。
私が間違えなかったらこのドリアは美味しく仕上がり、お客さんの元へ運ばれたのに。

険しい表情で橙磨さんは新しいドリアを三つ作ると、再びオーブンに入れた。
その間にもオーダーは次々と貯まる。

「パスタ四つ出来ました、お願いします! 」

ホールが忙しいのか、東雲さんの声に彼女達は厨房に入ってこない。
どうやらお客さんの入れ替わりで、急いで席を片付けているみたいだ。

樹々の表情も不安な表情に変わっている。
暫くしてから紗季がやって来た。

でも、様子が変だ・・・・。

紗季は真っ青な表情で口元を押さえていた。今にも倒れなほどフラフラだ。
間違いなく持病が悪化したのだろう。

そんな紗季の背中を城崎さんは擦った。ちょっと申し訳そうな表情。

「もう、紗季ちゃん頑張り過ぎ。『無茶するな』って言ったけど、まあ無理か。みんな頑張っているもんね。自分も動かないと申し訳ないってやつ? 」

紗季は小さな声で答える。

「す、すいません」

「病院はいい?ちょっと横になってなさい」

そう言った城崎さんは紗季を裏の更衣室に連れていった。
そして紗季を横に寝かせると、城崎さんは大急ぎで料理を片手にホールへ戻る。

「小緑ちゃん!料理運べる?」

城崎さんの言葉にすぐに小緑がやって来た。
小緑だけは表情一つ変えずに料理を運ぶ。

だがマイペースな性格なのか、小緑はあまり急ごうとはせずに慎重に料理を運ぶ。