本当に売り上げない店なのかな?
いつの間にか客席は満席で慌ただしく、賑やかな店内へと変わっていた。

馴れない動きの樹々達は、必死に笑顔を作って接客をする。

城崎さんは常に全体を見渡し、一つ一つ的確に彼女達に指示を出していく。

そしてそれは厨房も同じだった。

「橙磨くん、ドリア三つオーブンに入れたらカレー四つお願いします」

「はい、了解っす!」

まるで戦争だった。
目の前に貼られたオーダー伝票確認しながら、東雲さんと橙磨さんは料理を作っていく。

私は踊るように東雲さんの指示に従って正確に動いた。

「茜ちゃん、パスタ皿四つ。それとそこの冷蔵庫からレタス、戴けますか?」

「はい!」

気が付いたら私も声を荒げていた。
働いたら我を忘れ、見えない自分が現れていた。

こんなに大きな声の返事、父や兄にも返したことないのに。

そんな中、不安げな表情で城崎さんは厨房の様子を確認してくれた。

「厨房は大丈夫?」

東雲さんはいつもの笑みを見せる。

「橙磨くんと茜ちゃんが心強いので大丈夫です。あと仕込んだサンドイッチが無くなったので、お客様に時間が掛かると伝えてください」

サンドイッチは毎日城崎さんが朝から仕込んでいる。
この店の名物料理らしく、一番人気があるランチメニューだ。

オーダーが通ったら、バケットのような可愛い器に盛るだけ。
でも今日はその仕込んだサンドイッチが全て売り切れた。

だから東雲さん、今からサンドイッチを作るつもりだ。
食材を切って一から作ったら、時間はかなり掛かるのに。

城崎さんも驚いている。

「うっそ、大丈夫ですか?オーダーストップした方がよくないですか?」

「心配無用です。こう見えて結構余裕なんで。それにあまり価値を下げることはよくないかと思います。ここのお店のサンドウィッチを目当てに来店してくれるお客さんもいるので」

そう言って、手の動きを一つも止めずに笑顔を見せる東雲さんの表情を見たら、何がなんだか分からなくなった。
『どうしてこんなに忙しいのに笑っていられるんだろう』って私は思う。

そしてそれは流石の城崎さんも私と同じ考えみたい・・・・。

「さすが社長、精進します・・・。でもあまり二人を無茶させないでくださいね」

苦笑いを浮かべて城崎さんは厨房を出ていく。
そして城崎さんはすぐにお会計で呼んでいるお客さんの元へ向かった。

「茜ちゃん、敷き板三枚お願い。ドリアが上がるよ」

「はい!」

橙磨さんの言葉に私は動く。

ドリアは器ごとオーブンに入れるため、素手で持つことは出来ない。
そのためドリアには『敷き板』と呼ばれる木の板を敷いて、お客さんに提供するみたい。

だけど私、頭が混乱して敷き板が何なのか分からなかった。
もう自分が何をしているかすら分からない。

分からないから、間違ってパスタ皿を並べてしまった。

何やっているんだろう・・・・・・。