橙磨さんは東雲さんと打ち合わせをしている。
きっと東雲さんのサポート役なんだろう。

入念に何度も何度も確認して、息を合わせようとしていた。

『カレーはご飯を持ってカレーを注ぐ。ドリアは専用のグラタン皿にあらかじめ炊いておいた黄色いライスの上に、特製のミートソースとチーズを掛けてオーブンに入れる』など。

そんな会話が二人から聞こえてきた。

私にはついていけない会話だ。
まるで外国の言葉みたい・・・・。

「三名さん来たわよ」

厨房の外から聞こえる城崎さんの声に、私は心臓が口から飛び出しそうだった。
もし満席なった頃には、私はどんな表情をしているのだうか。

オープンキッチンではないが、厨房の小窓からは客席の様子が確認出来る。

その小窓を覗くと、樹々は笑顔で三人組のおばあちゃんのお客さんと話していた。
紙の伝票にオーダーを書き込む樹々は、キッチンに戻ってくる。

ちなみにその三人のおばあちゃん、東雲さんが言うには常連さんらしい。
ほぼ毎日来てくれて、三人一緒のパスタランチを頼むとか。

そして今日もいつものオーダーのようだ。

お客さんに見せていた笑顔から一転、迷ったような声で樹々は厨房にオーダーを知らせてくれる。

「えっと、パスタ三つでお願いします」

「はいよ!」

「はい!」

その男らしい元気ある橙磨さんと東雲さんの声に、私は思わず怯んでしまった。

どうしたらいいのか分からずに、周りをキョロキョロしていたら、城崎さんに背中を叩かれた。

「はいはい、落ち着いて、落ち着いて。茜ちゃんの役割は何?」

「えっと」

冷静になろうと必死になったら、更に混乱した。
まるで、止めても何度も鳴る壊れた目覚まし時計のように私は落ち着きが無かった。

そんなダメな私に、東雲さんが笑顔を見せる。

「茜ちゃん、パスタ用のお皿三つを並べてくれますか?」

東雲さんの言葉に私はようやく自分の役割を思い出した。

「は、はい!」

パスタのお皿は底の深い器。
沢山皿が並べられた棚から、私は指示されたパスタの器を取り出す。

そして震えた声と共に、私は盛り付け場に皿を三枚並べた。

「お、お願いします」

「はい。ありがとうございます」

そう言って東雲さんはまた私に笑顔を見せてくれた。

その様子を城崎さんは、まるで我が子を見守るような表情で私を見ていた。

そして厨房の外からうっすら聞こえる樹々や紗季の笑い声。

こんな私の無様な姿を見て、笑っているのだろうか?
ちょっと恥ずかしい。