ショッピングモールから城崎さんのカフェまでは歩いて五分ほどの距離。
かなり近い。

そしてそのカフェに入ると、店長である城崎さんが嫌な顔して私達を見ている。
まるで、『なんでこんな日に来るの?』と言っているような、彼女の死んだような目。

「ってか、追い出したのになんでまた来ちゃう?ショッピングモールに私より美味しい店、腐るほどあるでしょ?今日絶対忙しいのに」

腐ったような城崎さんの言葉に、私は少し苛立ちを覚えた。

いや、そもそも『来てくれ』と言ったのは城崎さんではないか。
『昨日の私との会話を忘れた』とは言わせない。

それとも何かあったのだろうか?

営業時間前なのに、スタッフは店内には城崎さんしかいない。
いつもいるアルバイトの人達が今日は見当たらなかった。

そんな私の疑問を、樹々が聞いてくれた。

「どうしたのですか?シロさん。他のアルバイトの人は・・・・」

「アルバイトしたい人、今すぐ手をあげて」

城崎さんが何を言っているのか、私はよく分からなかった。
みんなも私と同じで、お互い顔を見合わせていた。

そんな鈍感な私達に、城崎さんは深いため息を吐く。
そして急に声が荒くなる。

「今日のバイト四人全員がこんな時間になってから『休む』って言ってきたの!もう全部言わせないで!何も口出ししないで!」

城崎さんの今にも泣きそうな表情に、私達はようやく納得した。

今日来てくれるアルバイトが全滅して、従業員は城崎さんのみ。
一人で料理作って運んでお会計なんて出来ないだろうし。

だから城崎さんは私達に助けを求めている。
急に現れた救世主みたいな私達に、遠回しに『助けて』と言っている。

私は素直に城崎さんを助けたいと思った。
ずっと支えてもらっているし、今までの恩を返したいと思う。

だったらここで手を上げたらいいだけの話なんだけど・・・・・。

そもそも働いたことのない私に、そんなことが出来るんだろうか。
迷惑になるだけじゃないだろうか。

私は城崎さんの力になれるのだろうか。

現実的だけど、余計な考えが私を邪魔をする。
こういうときは嘘でも『手伝う』って言わないと。嘘でも城崎さんを勇気付けないと。