「小緑ちゃん、親と仲良くなれた?家出しているって聞いたけど。両親も難しい人って聞いたけど」

私は驚いた。

「城崎さん、知っているんですか?」

「まあね。茜ちゃんは知らないと思うけど、夜中の閉店時間ギリギリによく紗季ちゃん一人で来るのよ。門限厳しい家を抜け出して何を話すのかと思ったら親の愚痴。あれはもう完全に仕事に疲れた酔っぱらいよ。一方的に話すあの子の姿は私より絶対酒癖悪くなるわ。まあでも可哀想だけど一生飲めない体質みたいなんだけどね」

愚痴か。
そりゃあんなふざけた親だったら仕方ないよね。

紗季も頭いいから色んな事を考えているんだと思うし。

「紗季も大変ですもんね」

そう言って私は流そうと思った。
紗季の言う愚痴気になるが今は知りたくない。

これ以上私の親友の素顔を知るのは今の私には重すぎると思ったから。
山村紗季(ヤマムラ サキ)。
ふと脳裏に彼女の笑顔が浮かんだ。

嘘と悲しみに溢れた彼女の表情。

私は今日一日、紗季の作戦にどれだけ振り回されたか。
そしてどれだけ深い渦潮に呑まれてしまったか。

『山村紗季の闇』という、心の渦に・・・・。

もう私、親友が苦しむ姿を見たくない・・・・・。

電話越しにアクビをしているような城崎さんの声が聞こえた。

城崎さん、疲れているのだろう。
お姉さんのこともあるし。

そして今日のお話はこれで終了のようだ。

「じゃあ今日はこの辺にしようか。明日は日曜日で私も忙しくなるし」

「はい」

『明日暇だったら遊びにおいでよ』

そう最後に城崎さんの声が聞こえて、会話が終わった。

私も携帯電話を耳から離す。

会話を終えた私はいつの間にかベッドで寝ていた。

まるで静かな水の中に吸い込まれるように、深く眠れた。
でも夢では今日の出来事が何度も再生された。

だから今日起きた時は、凄く目覚めが悪かった。
今日私が浮かない表情を見せている理由は、その夢が脳裏から離れないから。

それと嘘みたいな紗季の笑顔が少し怖いと思ったから。
『なんで辛いのに笑っていられるのだろう?』って不安になったから。

一番辛いのは、紗季のはずなのに。

・・・・・。

ホント、全部夢だったらいいのに。

そしてこれから起こる悪夢のような出来事も、全て夢だったらよかったのに・・・・。