「でも紗季ちゃんの追い上げ凄かったね。カッコよかったよ」

私は突然名前を出された橙磨さんに振り返ると同時に小さく首を傾げる。

「そうかな?」

「うん。なんていうか、紗季ちゃんも楽しそうな表情するんだなって。負けたくないって言うような顔するんだなって」

そう言われて何故か凄く恥ずかしいと思えた。

どうしてかな?
知らないと自分が現れたからかな?

そんな会話をする私達に、遠くから樹々ちゃんの声が聞こえた。

「みてみて!すごくない?茜が 一回で取ったんだよ!」

少し離れた場所から樹々ちゃんが笑顔で走ってきた。
両手には大きな熊のぬいぐるみを抱き締めている。

そして樹々ちゃんの後ろでいつもと変わらない無愛想に見える表情を浮かべて歩く茜ちゃん。

「へぇ、茜ちゃんこういうの得意なんだ」

「得意というか初心者です。やったことないです」

淡々と橙磨さんの言葉を返す茜ちゃんに、私は違和感を覚えた。

『初めて』って茜ちゃん、小学生の時からクレーンゲームは得意だったのに。
私、一緒に遊んでいたら覚えているんだけど。

それに私がゲームセンターが好きになった理由は、茜ちゃんにゲームセンターの存在を教えて貰ったからなのに。
『いいところがある』って言いながら私の腕を引っ張って連れてこられた場所なんだけと。

どうして嘘を付くんだろう。

まあでも、何か事情があるのだろう。
ゲームセンターに隠された、茜ちゃんの秘密?

葵くんや愛藍くんは関係あるのだろうか?

私は時刻を確認すると、いつの間にか時計の針は十一時四十五分を示していた。
もうちょっと遊びたいけど、その気持ちを噛み殺して私はみんなを引っ張る。

「時間も過ぎたし、城崎さんのカフェに行こうか。私と橙磨さんはこっちゃんに奢って貰えるから何にしようかな」

私の言葉に案の定小緑は怒り出す。
「なっ!橙磨さんはいいけど、さきねぇは絶対に嫌だ!」

いや、冗談だから!
本気にしないでいいのに。

そう言おうとしたが小緑の怒った表情が可愛かったから、代わりに笑顔を見せた。

『もうずっと怒っていてほしい』と、私は変なことを考え始める。

それに小緑は橙磨さんの事が気に入ったのか、小緑は彼の側から離れない。

そして小緑はあまり見たこのない嬉しそうな表情で橙磨さんに語りかけていた。

まるで『頼れるお兄ちゃん』が出来たみたいで、小緑から笑顔が耐えなかった。

私も何だか嬉しかった。