一時は大差になった対戦スコアも、終盤戦に入るとスコアに変わりは無かった。
後ろから『流石』と、橙磨くんの声が聞こえた気がする。

これがお金に変わる仕事だったら私は嬉ぶけど、現実はうまくいかない。

そして対戦が終わった。
結果僅差で私と橙磨くんの勝利だった。

彼もあまりいい性格ではないので『昼飯よろしくね』って笑顔で言いながら、小緑の肩を叩いた。

ってか私、なんで妹のお財布を攻撃していたんだろう・・・・。

一方で小緑は私達に怒りを露にする。

「今のなし!さきねぇ出てくるなんてズルい!」

怒った表情で小緑は橙磨くんを睨め付けていた。

そう言えば小緑、昔も同じことを言っていたっけ。
悔しそうな表情の次は『さきねぇは不正をしている!』なんて言ってさ。

証拠もないのに私に怒っていたっけ。

そんな小緑に、橙磨さんは難しい言葉で返す。

「でもね小緑ちゃん。勝つ事と言うのはそういうもんだよ。勝つためならズルしても問題ない。ズル勝ちでも勝ちは勝ちだし。それに『ズルして勝ったからその勝ちは無効だ』なんて叫んでも、それはただの負け犬の言い訳。不正を許している時点で、もう勝負には負けているんだよ」

その中学生相手にはキツすぎる橙磨くんの言葉に、私は慌てて小緑の弁護をした。

「ちょ、ちょっと橙磨さん!ちょっと言い過ぎだって!」

でも弁護をして私は気が付いた。
『弁護をしている時点で私はやっぱり負け組だ』って。

『負け組だから、負け組の選択肢か残っていない』って。
胸が締め付けられるように痛くなった。

橙磨さんは小緑を見て小さく笑う。

「まあね。でも心の片隅には置いておいた方がいいよ。小緑ちゃんもそう思う日がいつかきっと来る」

小緑は橙磨さんに問い掛ける。

「悪いことしろって言うの?」

「そうじゃない。悪いことしたら警察に捕まるよ。もうお姉ちゃんの顔が見れなくなるよ」

小緑は小さく首を傾げた。

「じゃあどう言うこと?」

「勝ちに貪欲になること。経緯なんてどうでもいい。どんな手を使っても勝って、最後に笑えたらそれでいいと思うけどね。今はまだ子供だからいいけど、社会に出たら結果が全てだからね。相手は先生でも親でもないんだから、負け続けていたら自分の居場所を失っちゃうよって話。って、まだ小緑ちゃんには難しい話か。まあぶっちゃけ、僕もだけどね」

その橙磨さんの言葉に、まるで自分の事のように私も考えてしまった。

『最後に笑えたらいい』って、私もそう思う。
如何なる経緯でも、『楽しかったらいいのかな』って。

捉え方は違うと思うけど、今の私のように『楽しい日々を無意味に過ごすのもいいのかな』って。

だから人生いろんな事あるけど、『楽しい』と思ったらそれだけでいいと思う。
お金がなくても、辛いことがあっても、最後に仲間と笑えたら最高に幸せだ。

一緒に困難を乗り越えたら、なおさら良い。

まるでここにいる私の親友達のように。
みんな必死に生きて、今を楽しんでいるんだ。

そう思ったら、私も負けていられない。

それに小緑は私が守らないと。
さっきも言ったけど、どんな手を使ってでもね。

例えば昨日のように。
私が両親に頭を下げて殴られたとしても、小緑を守ることが出来るなら頑張らないと。

私には手段を選ぶ暇なんてないだろうし。