小緑と橙磨さんの対戦は小緑の優勢で序盤を終えた。
『初めて』と橙磨さんは言うが、差は大して変わらない。

本当に初心者なんだろうか。

だけど中盤、橙磨さんの集中力が無くなったように見えた。
差はどんどん広まり、小緑の勝利が見えてきた。

橙磨さんが扱うキャラクターの体力はどんどん削られる。
そう言えば二人、『負けたら昼ごはんを奢る』なんて約束していたっけ。

ちなみに提案したのは橙磨さんだ。
中学生相手に橙磨さんも何を言っているのだろう。

でもそのせいか、小緑のやる気は凄かった。
真剣な表情で、あまり家では見たことのない表情で目の前のゾンビをひたすら撃ち抜いていた。

何だかこっちゃん輝いて見える。

一方の橙磨さんは完全に集中力が切れている。
横目で小緑と私を確認している。

と言うか、なんで私を横目で見たんだろう?
私、なんか悪いことしたかな?

「紗季ちゃん」

「ひゃい!」

そんな橙磨さんに突然名前を呼ばれた私。
声が裏返って凄く恥ずかしい。

そして橙磨さんは手に持っていたオモチャの拳銃を軽く私に投げた。
同時に彼は『敗け』を認める。

「やっぱり僕こういうの苦手だわ。後はよろしくね」

「えっ、ちょっと!」

後はよろしくって・・・・はい?

私は慌てて拳銃をキャッチして『どうしようか』と考えた。
だけどそんなことを考えている間にゾンビに襲われ、ゲーム内の体力は削られている。

殆ど体力は残っていない。

こうなったら『橙磨くんのためにやるしかない』と切り替えて、頑張るしかない。
負けたら橙磨さんに申し訳ない。

襲ってくるゾンビを私は振り払いながら目の前のゲームに集中した。
それに橙磨くんのお財布の命がかかっているし。

迂闊には負けられないし、下手すりゃ私の財布も危ないかも。

と言うか、なんでこんな時も『自分のためだ』と言い切れないかな?
『負けたらお姉ちゃんのプライドがズタズタにされる』とかでもいいじゃん。

なんで自分のために頑張れないんだろう。

・・・・・・・。

ホント、自分が嫌いだ・・・・。