ルビコン

初めて小緑とゲームセンターに来たのは今から五年前の時だ。
ゲーム好きな私は『ゲームセンターで遊ぼう』と小緑に提案したが、小緑はためらっていた。

『そんなの面白くない』って最初は嫌がっていた。

だけど私は無理矢理小緑にゲームをやらせてみた。
そうしたら小緑の表情がいつの間にか変わっていた。

対戦モードで当時は『手加減』という言葉を知らなかった私にコテンパンにされたというのに。

あの時初めて見た小緑の表情を私はしっかり脳裏に焼き付いている。
小緑の泣きそうな悔しそうな表情を・・・・。

負けたくない。
言葉には出ていなかったが、小緑はそう言っていたように見えた。

同時に胸が苦しくなった。
『私、あんな表情を誰かに見せたことあったっけ?』って私は思った。

その頃は分からなかったけど、今になって思うことはある。
『負けたくない』と思わないから、私は『人生の負け組なんだ』と気が付いた。

足掻くくらい簡単なのに、それすらしない私。

先に勝つか負けるかの計算して、負ける勝負だったら私はしない。
その考え事態が負け組の発想だと言うのに、本当に私はバカだとつくつぐ思わされる。

と言うかそもそも『負けたくない』なんて思ったことは一度もないと思う。
『悔しい』と心の中で叫んだことは、きっと一度もない。

私は常に誰かを意識して、誰かに操られて、誰かのためにに全力を尽くす。

自分は関係ない。
体調が悪くても『勉強を教えて』と言われたら私は頑張った。

倒れそうになっても、昼休みが潰されても私は何一つ文句を言わなかった。

それが『山村紗季という女なんだ』って、そう勝手に納得していた。

そして『そんなことを考えるから勝ち負けなんてどうでもいいんだ』と思わされる。

ゲームで勝っても嬉しくないのはそれが原因だ。
負けても悔しくないのは、私の考えが腐っているから。

だから小緑が羨ましい。
私には無いものを小緑は持っている。

私もそれが欲しいけど、手を伸ばすのが怖いと思う自分がいる。
自分のために頑張れない自分がいる。

『悔しい』と叫んだら私の人生何もかも上手くいくのに・・・・・。

本当に勿体無い。