「あー、樹々ちゃん何でもないから。ってかどこ行ったらいいの?今から行くから」

「あっちょっと待って、確認する」

確認?
誰か隣にでも居るのだろうか。

そして待つこと数秒。
すぐに携帯電話から男の子の声が聞こえた。

年上だけど同じクラスの男の子。

「あーもしもし紗季ちゃん?元気?身体大丈夫?」

私は当然驚いた。
電話越しに話す橙磨くんの声に。

「橙磨さん?どうして樹々ちゃんと一緒に?」


「まあ色々ね。多分十一時頃に駅に着くから待っててくれるかな?行く場所は会ってから決めるから」

その無計画な男らしい言葉に私は何故か安心した。
茜ちゃんや樹々ちゃんと遊ぶときは事前に予定を決めてから遊ぶし。

まあでも、結局予定を無視して適当に遊ぶのがいつものオチなんだけどね。
よく分からないけど、それが女と男の違いなんだろうか。

「うん。じゃあ今から準備して向かうね」

私はそう言って笑みを見せた。
電話だから橙磨さんに伝わるわけがないのに。

でも最近はみんな忙しいし、前みたいに遊ぶことも減ったから私は素直に嬉しかった。
こうやってみんなで遊ぶって、なんだか久しぶりだ。

「んじゃ、またね」

その橙磨さんの言葉を最後に通話が切れた。
そして次に聞こえるのは目の前の小緑の声。

「さきねぇってよく笑うけど、それって愛想笑い?」

小緑の言葉に、私はなんて返したらいいのか分からなかった。

「えっと、どうかな?」

でも迷っている時点で、『愛想笑いをしている』と言うことなんだろう。
素直に否定したらよかったのに、曖昧な私の姿は小緑を不安にさせるだけだった。

まあでも、今はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに私は立ち上がる。

「さあ、支度しよ。勉強はまた帰ってから教えるから。今は遊ぶことだけ考えよ」

そう言って私はまた小緑に笑顔を見せた。
優しいお姉ちゃんの笑顔、ちゃんと作れているのだろうか。