ルビコン

親に見つかった。
父はトキさんを追い出し、私に酷く叱った。

母は私を病人ということすら忘れて病室で私を何度も殴った。
その姉の滑稽な姿を、当時小学二年生の妹の小緑は震えて見ていた。

それからトキさんと会うことは二度と無く、前みたいに病室に来ることは無かった。
トキさんの連絡先は知らないし、何処に住んでいるのかも知らない。

便りの祖母は亡くなったし。

『もうトキさんと会うことは無いんだ』と知ったときは、私は酷く泣いていた。
病室で寝付けない日々が続いた。

毎日が楽しくない日々に変わってしまった。

だからなのか、心痛めた私は親の言葉を思い出していた。
両親が私と小緑に言っていた、トキさんの存在を拒む言葉。

『ろくでもないババア。馬鹿が移る』

・・・・・・・。

本当にそうかな?

本当に、トキさんは悪者だったのかな?
むしろ私の親の方が悪者に見えた。
どう見たって『トキさんが可哀相』だと私は思った。

それに親からトキさんを拒む理由を何度も聞いているが、何度も親は言葉を濁す。
何一つ答えてくれない。

答えてくれない以上、トキさんが悪なのか私には判断できない。

同時に答えてくれないから、私は親の言う言葉に疑問を感じるようになった。
今まで何も考えずに親の言う通りに生きてきたのに、急に親が信じられなくなってしまった。

なんて言うか、『明らかに隠し事をしている相手を信用してもいいのか?』って私はふと思った。

でも私はまだ中学生の子供。
親と縁を切るなんて行動はどうしても移せなかった。

何より身体のこともあるし、小緑の存在もあるし・・・・。

『親の言うことは絶対だ』と、親に教えられた私。

勉強すれば父のように政治家になって、良い家に住めて毎日美味しい物が食べられる。
母のように良い大学に入って、公務員になれば人生が安泰する。

人生一生困ることはない。

そんなエリートのような人生を歩む両親の決め台詞はいつもこうだった。
『人生の勝ち組になりなさい』って・・・・。

だから私は常に両親を尊敬して、『毎日勉強』と言う努力をしたいた。
私が親を信じていたから、親も私の事を信じていたのだろう。

『今度のテスト、満点を取るからゲームを買ってほしい』と言ったら親は承諾してくれた。

そして私は宣言通り満点を取って、親はゲームを買ってくれた。
それが小学生の時のこと。

その頃は何一つ不自由なかった。
真面目に頑張ったら褒美がついてくる。

それだけで私は幸せだった。