私『山村紗季(ヤマムラ サキ)』の両親は祖母の姉の存在を頑なに拒んでいた。
家に招くことも無かったし、年末年始の挨拶も一切しなかった。

理由は私にはわからない。

ただ親が私と妹の小緑にいつも言っていた言葉がある。
それは、『ろくでもないババア。馬鹿が移る』ってさ。

小学生だった当時の私は、あまり事の大きさを考えたことが無かった。
本当に親の言う通りで、『祖母の姉は頭の悪い馬鹿なんだ』と当時は思っっていた。

会ったこともないのに、そんなことを思っていた。

私が中学に入学した頃の出来事だった。
私の祖母はガンで亡くなり、お葬式が行われた。

もちろん祖母の姉も来てくれた。
だけど実の妹が亡くなったと言うのに、私の親は祖母の姉を追い出した。

線香すら上げさせてもらえなかった。
理由はやっぱり、『祖母の姉の存在が嫌い』だから。

同じ頃、私は身体が弱くて何度も入退院を繰り返し、毎日病室の天井を見上げる退屈な日々が続いた。
中学一年生の時は、学校なんて殆ど通っていない。

そんな私を訪ね、知らない高齢のおばちゃんが見舞いに来てくれた。
顔は知らない。

だけどどこか嬉しく思えるような、どこか懐かしい雰囲気。
会ったことないはずなのに。

大好きな祖母に似ているから?

話を聞いたらおばちゃんは私の祖母の姉だった。
名前は北川トキ(キタガワ トキ)さん。

トキさんは私のために、死んだ祖母の昔話をしてくれた。
大好きな祖母の話を聞いて、私は本当に嬉しかった。

そして祖母の意外な一面に、私は病院だということを忘れて何度も大声で笑っていた。

トキさんは私が入院している時は毎日来てくれた。
いつも私の親がいない時間を狙って、トキさんはやって来る。

そしていつも楽しいお話をしてくれる。

毎日退屈だと感じていた私は、トキさんと過ごす時その間が好きだった。
いつも『トキさん早く来ないかな?』って、楽しみにしていたっけ。

お話以外にも私は親に内緒で、トキさんと病院の売店に何度も行っていた。
そしてトキさんにお菓子やジュースを買って貰った。

勉強しないとお小遣いをくれない親と違って、『欲しい』と言えば何でも買ってくれるトキさんが本当に大好きだった。
同時にあの頃は本当に楽しかったと懐かしく思う・・・・。

だけどその楽しい日常は長くは続かなかった。