ルビコン

僕は謹慎中、折れた肋を治療しながら若竹さんの焼鳥屋で働き続けた。
若竹さんに『寝てろ』と言われても無視して仕込みを行い、給料すら受け取らなかった事がある。

反省していたの同時に、冷静さを取り乱していたのだ。

そして最終的には何も考えられなくなって、店から出ていこうかと思った。
こんな人間、ここに居てはならない・・・・。

だけど若竹さんに怒られた。
『今出ていったら、誰が桃花の帰りを待つんだ』って。

いつも温厚な若竹さんに初めて怒られた。
そして初めて怒られたから、僕は涙を溢した。

こんなにも僕の事を思ってくれる人が近くにいるって、改めて知ったから。

まるで、本当のお父さんみたい。

家族みたい・・・・。

一方で桃花は長い眠りの序章だった。
早く目が覚めてほしいと僕と若竹は祈り続け、毎日桃花の病室に通った。

でも二年の歳月が流れた今も桃花は目を覚ますことはない。

結局、根岸くんの苛めの真実を聞けないまま桃花は眠り続けた。
その答えは今もまだ、解き明かされることはなかった。

そしてそれは、桃花が目を覚ますまでは分からないだろう。

どうやらまだまだ先は長そうだ・・・・・。

以上が僕の昔の出来事だ。
僕と桃花が離れ離れになってしまったお話・・・・。

その僕の過去のお話を少し自慢気に話したら、樹々ちゃんは魂が抜けたように落ち込んでいた。

まるで自分のことのように。

そして今度は樹々ちゃんの過去を再度改めて聞いた。
どうやら樹々ちゃんもいじめられた経験があるようだ。

父親の通り魔事件で、樹々ちゃんは何年も悩んでいたと。

そんなお互いの過去を話していたら、僕達はいつの間にか目的に着いた。
いつも僕が学校に向かうために下車する駅に着いた。

改札を潜って周囲を確認すると、そこには茜ちゃんと紗季ちゃんが待っていてくれた。

あと明るい茶髪の中学生の女の子。
確か夏祭りにいつの間にかいた紗季ちゃんの妹だ。

紗季ちゃんが連れて来てくれたのだろう。
いっぱい人がいた方が楽しいか。

そんな彼女達に僕は笑顔を見せる。

どこかから感じる真っ黒な空気を、少しだけ気にしながら・・・。