桃花がどうなったのか。根岸くんがどうなったのか。
全く覚えていなかった。

ただ気が付いた頃には僕は警察署にいた。
警察官に聞くと、僕は根岸くんと桃花を金属バットで殴り付けてしまったららしい。

どうやら桃花を殴ったのは、僕の行動になっているらしい。
つか、そもそも僕は桃花は殴ってないし。

・・・・・・・。

いや、『もしかしたら桃花を殴ったのは俺なのかもしれない』って思う自分もいた。
頭の中は真っ白で、何も覚えていないからこそ『僕が殴ったのではないか』と自分を責めていた。

『もしかして自分の中にとんでもない悪魔が潜んでいるんじゃないか』って。
自分自身が怖くなった。

そんな中、保護者である若竹さんより早く警察署に飛んできた人がいる。
背の高くて細い女の人だった。

見たことはあるが、その時は『誰だろう』と思った。
桃花とよく行っていたカフェに似たような人が居た記憶はあるが、彼女の名前は知らなかった。
杏子さんだって、その時の僕は気が付かなかった。

その杏子さんは近くにいる警察官に向かってこう言ったらしい。

「橙磨くんはやっていない。やったけどやっていない!」

その荒々しい声は二階で事情聴取をしていた僕の耳にも聞こえた。

ってかなんで僕の名前を知っているのさ。

僕、杏子さんのこと知らないし。
当時は『若槻杏子』って名前なんて知らなかったし。
というか、向こうも知らないでしょ?

たまにカフェに行く双子の兄妹の存在なんて。
でもその杏子さんの言葉で事件は整理された。
僕が桃花を殴っていないということが証明された。

だが根岸くんを殴ったのは事実。
覚えていない事やとっさの行動で、僕は傷害罪で逮捕された。

まあ、すぐに釈放されたけど。

一方で僕の通う高校は今回の一件に対して、僕に退学処分を言い渡した。
『逮捕された生徒は要らない』んだってさ。

あと半年で卒業なのに・・・・。

だか数日経ってから何故だか退学処分は取り消され、僕の処分は無期限の謹慎生活を余儀なくされた。
どうやら学校にも杏子さんが話をつけてくれたらしい。

本当に杏子さんという人は『意味の分からない人』だと思わされる。
知らない男の子相手にそこまで行動出来るかな?

だから今の樹々ちゃんの気持ち、凄く理解出来るんだよね。
樹々ちゃんも杏子さんと元々面識なかったみたいだし。

会話が苦手な僕だけど、見知らぬ僕達を救ってくれた杏子さんの話題なら、いくらでも話せると思うし。