殺される。
それだけは理解できた。

でも同時に桃花のいつもの笑顔が脳裏に遮った。

『死ぬ前に大好きな人の顔が浮かぶって、ある意味僕は幸せな人生を歩めたのかもしれ
ない』って。
ふとそんなことを思った。

そして鈍い音が聞こえた。
想像しただけで嫌になる、金属バットで誰かの頭を殴る音。

僕は根岸くんに金属バットで殴られた。
自分の人生は終わったんだと思った・・・。

・・・・・・。

いや、ちょっと待って。
鈍い聞こえる時点でおかしい。

その音が聞こえたら、僕はまだ死んでいない。

何より痛くない。
頭がかち割れそうな痛みが襲ってこない。

だから僕は不安になる。
『じゃあ一体、今の音は何だったんだ』って。

そして聞こえる根岸くんの震えた声。
僕の妹の名前を呼ぶ声。

「てっテメエー!桃花!」

根岸くんの慌てた言葉に僕は気が付いた。
そして同時に僕の身体が重たい事に気が付く。

まるで誰かが庇ってくれたような暖かさと重み。
僕の代わりに誰かが殴られてしまって、そのまま僕の上に倒れているような生々しい暖かさを感じる。

・・・・・・。

その暖かさが『桃花』だと気付くのに、僕は時間がかかった。
眠るような可愛らしい表情だけど、頭から血が流れていた。

そして桃花が僕を守ってくれたと言う現実に、僕の頭の中は真っ白に染まる。

その先の事は僕は覚えていない。
本当に覚えていない。