僕と桃花は若竹さんに助けられ、その日から焼鳥屋さんで住み込むようになった。
お礼と言う代わりに、その焼鳥屋さんでアルバイトをするようになった。

カウンターしかない小さなお店。

朝から昼は学校で勉強して、夜になれば僕は若竹さんの店で料理人として働いた。
初めての包丁に、気が付けば指は絆創膏だらけ。

同時に初めて見つめ合う目の前の炎に僕の腕は赤黒く火傷に染まっていた。
『僕にはこの仕事は似合わない』と、何度も思った。

だけどその僕の姿を見て、若竹さんは何度も励ましてくれた。
食材を駄目にしても僕に怒ることなく『俺もやったから』って笑って、何度も何度優しい言葉を掛けてくれた。

桃花は『性格上危険』という理由から厨房には入れて貰えなかった。
でも代わりに厨房の外でお客さんに笑顔で料理を運んでくれた。

時々お客さんに料理をぶちまけるという最悪のトラブルを作るなど相変わらず迷惑をかける事は健在だったが、持ち前の笑顔と前向きな性格で何度も何度も謝っていた。

お客さんも優しいから笑っていたっけ。
『気にするな』って、桃花の真面目な姿を見て許してくれたのだろうか。

そしていつの間にか桃花を求めて来店してくれるお客さんも増えた。
小さな店の小さな看板娘として、アイツは頑張っていた。

大将の若竹さんはいつも僕達を笑わそうと知恵を絞ってくれた。
正直全然面白くはなかったが、意味も分からず笑う桃花の姿に不思議と僕も笑っていた。

僕も新しい生活に自然と笑みが溢れていた。
学校は元々楽しかったし、アルバイトでも充実した日々は最高だった。

だからいつの間にか、両親の顔も忘れていた。
もう父とは四年近く会っていないし、母なんてそれ以上会ってない。

と言うか昔は両親の事が好きだったのに。
僕の場合はずっと母と一緒に仕事していたのに・・・・・。

でも今はいつも側に桃花が居てくれる。

だから僕にとって、『かけがえのない存在』だ。
まるで太陽のような存在だったのに・・・。

・・・・・・・・。

その僕の太陽はある日突然失われた・・・。