二年前、『桃花が意識不明の重体』って知らされて、暫く学校を休んだあの数日間。
大切な人を失い、生きるのが嫌になったあの絶望感。

きっと今の樹々ちゃん、その時の僕と同じなんだろう。
僕が経験したことを、樹々ちゃんが経験している。

だから、僕が樹々ちゃんを助けないと。
杏子さんがよく使う言葉のように、困っている人がいたら助けないと。

辛い気持ちに押し潰され、僕みたいになるのは絶対に違う。

一方の樹々ちゃんは驚いた表情を浮かべている。
まあ確かに、異性と二人で遊ぶことくらい抵抗はあるか。

それに樹々ちゃん、何故だか男の人が苦手みたいだし。
男の人と話すときは大抵目が泳いでいるし。

何か理由があるのだろうか。

そんな樹々ちゃんを見た僕は言葉を付け足す。
僕も樹々ちゃんと二人だけじゃ、会話に詰まるだろうし。

僕も昔から会話って苦手だし。

「んじゃあさ。茜ちゃんと紗季ちゃんも呼ばない?いっぱい人いた方が楽しいでしょ?」

僕がそう言うと樹々ちゃんは小さく頷いた。
大好きな親友の名前を聞いて、少しだけ樹々ちゃんの笑みが明るくなった気がする。

「じゃあ行こう。あと僕、まだみんなの連絡先知らないから連絡よろしく」

僕は今日初めて樹々ちゃんに笑みを見せた。
僕もやっと笑えたって思えたら、少しだけ気分が晴れていく。

この病院で笑ったことなんて一度もないし。

同時に俺はようやく樹々ちゃんの姿がいつもと違うことに気が付いた。

高そうなジージャンに白のパーカー。
そして黒のフレアスカートと黒のニット帽。

いつもと全然雰囲気の違う樹々ちゃん。

そして可愛らしく似合う樹々ちゃんの姿に、俺は何故か目を逸らしてしまった。