僕と桃花とは世にも珍しい男女の双子。
そして僕が先に産まれたらしいから、僕が兄らしい。

産まれた時からいつも一緒で、高校生になってもお互い離れることはなかった。
クラスが違っても休み時間になれば桃花から僕の元へやって来る。

周りの友達からは『二人で一人だね』なんて言われてよくからかわれた。
正直言って嬉しくない。

桃花は常に全力で前向きでな性格だ。
明るくて元気でいつも迷惑かけられて、本当にめんどくさい奴だった。

目の前にどんな壁が立ち塞ごうとも、壊すか乗り越えるまでは進み続ける奴。
そんな桃花が、今はいない。
目の前に姿はあるけど、まるで氷付けにされたようにびくとも動かなかった。

本当に死んでいるみたい。

だからそれが本当に辛い。
いつも側に居たパートナーがいないから、僕は悲しい。

と言うか人間に二年間も眠り続けることは可能なんだろうか。
どうして僕の声を、桃花は無視続けるんだろうか。

桃花が生きているからこそ、僕は辛い・・・・・。

桃花に背を向けると、僕は病室から出ようと扉へ向かった。

看護師さんも僕の姿に気が付く。

「あら、もういくの?」

看護師さんの言葉に僕は小さく頷く。

「はい。今日はちょっと用事があるので」

嘘だ。
用事なんて本当はない。

今日は日曜日で学校が休み。
わざわざ高い交通費を払ってここまで来た理由は、ただ桃花の顔が見たかっただけ。

『桃花は今必死に生きようとしているんだから、僕も頑張らないと』って勝手に納得して、勝手に元気を貰っているだけ。

不安になって辛く悲しくなったら、僕はいつも妹の顔を拝む。
まるで神様みたいな桃花。

僕は看護師さんに軽く一礼して部屋を出る。

同時に『僕も帰って寝よう』と思った。
ここ二年間、疲れているのか全く寝付けない。

そして僕はエレベーターのある方角を歩く。
すれ違う人達は皆、悲しそうな表情を見せているし、看護師さん達も慌ただしい。

邪魔者の僕は早く帰った方が良さそうだ。

でもそんな中、エレベーター直ぐ近くの病室に僕の視線が移った。
病室のネームプレートに見覚えのある名前が書かれていたから。

若槻杏子(ワカツキ キョウコ)。
その名前は僕のよく行くカフェの店長さんのお姉さんの名前だった。

昔から桃花と一緒にカフェに通っていたから、時々杏子さんが手伝う姿もあったし。

何度か『橙磨くんと桃花ちゃんは仲のいいカップルみたい』って茶化されたし・・・・。

それに二年前、僕を助けてくれたし。