この一件、私は酷く心を傷めた気がする。
山村家の闇。

小緑への『虐待』とも言える親の対応。
それと紗季の心に潜む『悪魔』のような思考。

同時にこの前紗季から言われた言葉を思い出した。
『知らない方がよかったって、思うことある?』って・・・・。

本当にその通りだと思った。
今日一日ピアノを弾いていれば、私はどれだけ幸せだっただろうか。

一方で紗季の声は急に明るくなる。

「ってことで、こっちゃんの勉強。よろしくね」

「はい?」

「だって水族館で約束したでしょ?二人で。なんだっけ。『勉強出来ないなら、私が教える』だっけ?」

その言葉に私は息を飲んだ。

「なんで知ってるの?」

「こっちゃんのヘッドホン。言ったよね?」

やっぱり紗季、どこかおかしい。
そういえば小緑のヘッドホンに盗聴機を仕掛けている理由、ちゃんと聞いていない。

「紗季、なんか恐いよ」

「そうかな?『妹想い』って捉えてくれないかな?何かあったら、守れるのは私だけだし。それと茜ちゃんと。守ってくれるんだよね?小緑のこと」

私はため息を吐いた。

「茜ちゃん!なんでため息吐くのさ!」

「知らない。他人に興味ないからじゃない?」

「だよね。茜ちゃん、他人に興味ないもんね。まあそれも最近は嘘ってバレてきたけど」

紗季は今、何を考えているのかわからない。
本当に今電話している相手は私の幼い時からの親友の山村紗季なのだろうか。

常に笑顔で、みんなに優しく振る舞う山村紗季なのだろうか。

今の紗季がただただ怖い・・・・・。

・・・・・・。