ルビコン

その姉妹の姿を見た私は『安心した』と、小さな息を吐くと立ち上がる。
そして早く帰ろうと決めた。

「じゃあ私はこれで。・・・・なんかすいません」

私はそう伝えると、山村家から逃げるように玄関を飛び出した。
そして急いでエレベーターに向かって、エレベーターの下降ボタンを押す。

運悪くエレベーターは一階で止まっていた。
早く帰りたいのに・・・・。

そんな私を呼ぶ声が背後から聞こえた。

「茜さん!」

振り返ると、そこには靴も履かずにあたしの元へ駆け寄る小緑の姿があった。
さっきの水族館にいた時と同じ無邪気な笑顔を見せている。

「えっと、どうしたの?私、何か忘れ物してた?」

適当に私は言葉を返した。
でも本当は小緑が走ってきた理由を知っている。

きっと紗季に背中を押されたのだろう。
紗季の事だから、『茜ちゃんに感謝の気持ちを伝えてきなさい』と言われたのだろう。

私は別にそんなの求めてないのに。

そしてその私の予感は見事に的中する。

「えっと、ありがとうございます」

照れ臭そうに、私と目を合わせようとせずに小緑はそう言った。

私も言葉を返す。

「いいよ別に。でもよかったね。紗季お姉ちゃん、小緑のこと嫌ってなくて」

「うん」

その言葉に安心したのか、小緑の表情が緩んだ。
世の中のことをまだ何もを知らなくて、遊ぶことだけを考えている中学生らしい表情に。

お互い無口な性格だからか、その後は言葉が出てこない。
少し重たいと感じる空気だけが通りすぎて、一階に止まっていたエレベーターが上昇する音だけが聞こえる。

私も『何か喋らないと』って思うけど、疲れて言葉がでてこない。

そしてエレベーターは私のいる階に到着した。
私は乗り込むと同時に、ふと思い付いた言葉を話した。

同時に私の腕に付いた小緑とお揃いのブレスレットを触る。

「ブレスレッドありがとう。大切にするね。紗季にもちゃんと渡すんだよ」

直後、小緑は驚いた表情を見せていた。
『なんで知っているんだ』って言っているような小緑の表情。

だって見えたし。
店前で小さな男の子とぶつかった時、紫色のストーンが光るブレスレッドが見えたし。