「お願いします!小緑を許してあげてください!お願いします!」

私は腰を更に低くした。
額を地面に付けて、何度も何度も同じ言葉を声に出した。

『性格が悪い』と思われてもいい。
バカだと思われてもいい。

でもこうすれば、この男は必ず怯む。
まさか娘の親友に土下座されるなんて、産まれて一度も思ったことのないだろうから。

紗季の父親はこの国を守る立場の人間だ。
仕事には真面目で全力で、本当に日本を変えようと頑張っている政治家だ。

彼を支持する人間も少なくないだろう。
表向きには『国をいい方向にする』と、凄く良いことを言っているし。

そんな彼の本質が表にバレたらこの男は一瞬で政界から蹴落とされる可能性もある。
家庭と仕事の能力は別だか、間違いなく支持してくれる人間は減るだろう。

二度と表に立てなくなるかもしれないし。

だからなのか、父親の表情から迷いが生じた。

そして物事は私達の願った方向へ進んでいく。

「わかった。わかったから!小緑、本当に真面目に勉強するんだな?」

慌てる父親の言葉に、小緑は服の袖で涙を拭う。
そして力一杯の声と同時に小緑は頷いた。

「はい!」

小緑の真剣な眼差しに父は再び怯んだように見えた。
さっきまでの威勢は本当にどこに行ったのだろう。

そして父親は息を吐くと、今回の山村家の出来事に終止符を打つ。

「わかった。今回は見逃す」

小緑の目を見ず、隣の白い壁を見ながら話す父親。
どこに向かって喋っているんだろう?

最後までふざけた父親だ。

でも父親の隣で、その終わりの言葉を待っていたかのように一匹のチーターのような女の子が噛み付いた。

「お父さん!それ本当?絶対に!?」

まるでその言葉だけを吐かせるように。
今日一日その言葉だけを狙っていたかのように・・・・・。

紗季は父の言葉を見逃さなかった。
本当に恐ろしいお姉ちゃんだ。

父親も何度か頷く。
「ああ。当たり前だ。何度も言わせるな!」

その言葉を聞いた母親は再びため息を吐くと、紗季から離れた。
まるで何事もなかったかのように、紗季に謝ろうともせずに母親はキッチンに向かう。

そして紗季は小緑に飛び付いた。
『よかったね』と、紗季は嬉しそうな表情を見せていた。

まるで姉妹喧嘩をして仲直りした後のお姉ちゃんみたい。

紗季から笑顔が耐えない。

一方の小緑は何がなんだかわからない表情を浮かべている。
でも時間が経てば小緑も理解したのか笑顔が溢れた。

どうやら大好きなお姉ちゃんがいる家に帰ってこれたみたい。