「真面目に勉強します。もう学校もサボりません。えっと・・・・次のテストは百点とります。だから、許してください!」

何も考えていなかったような中学一年生らしい言葉の直後、小緑の目からは涙が溢れていた。
『本当に許して欲しい』と我が子が言っているのに・・・・・。

父親の表情は変わらない。
まるで汚物を見るような馬鹿にした表情。

今度こそ小緑は父親に何を言われるかわからない。
もしかしたら殴られるかもしれない。

わからないからこそ私は不安だった。
本当に泣き出して、本当に家出してしまったら『桑原茜は一体何をしに来たんだ』って。

『頑張る紗季と小緑の足を引っ張りに来ただけじゃん』って。

私は素直に『誰かを助けたい』と思った。
だけど体が動かない現状。

目の前の恐怖に脅えて、私は足が動かない。
口も動かない。

でもこのふざけた両親に言いたい言葉はある。
それだけは脅えた私の中でも明確だった。

それを言わないと、私の気も収まらないだろうし。

他人の家庭に部外者が口出しするのはよくないと思う。
だから小緑や紗季を助けるためじゃない。

自分が個人的に、『このふざけた親に話がある』って。
そう思ったら不思議と身体と思考が雲のように軽く感じた。

軽く感じたら、またいつもと違う桑原茜が現れた。

「私からも、お願いします」

紗季のように土下座までとはいかないが、私は父親に頭を下げた。
小緑の震えた手を握りながら、『小緑の存在を許して欲しい』と私は祈る。

こんなふざけた人間に感情の言葉を言い返しても、相手は絶対に納得しない。
また怒りを買ってしまうだけ。

黒沼と言う教師から私は学んだ。

だからこう言う時は素直に謝るのが一番いい。
謝り続けて、相手の怒りを静めるのが一番いい。

トランプのジョーカーのように強いカードがあれば話は別だけど、そんな切り札は私には持ち揃えてない。

そんな私に驚く紗季の声が聞こえた。

「茜ちゃん、どうしてここに?」

『いや、来てくれと言ったのは紗季だろう』と思ったけど、直ぐに紗季の演技だと気が付いた。
この私の行動も、紗季の計算の内なのだろう。

だとしたら恐ろしい戦略だよ。

そしてその紗季の恐ろしい戦略は見事にハマる・・・・。