ルビコン

教室に戻っても一限目は残りわずかな時間しかなかったため、自習となった。
黒沼先生の不気味な存在感に生徒は誰一人と喋ろうとはせず、重い空気が流れ続ける。

だけどその時間は長くは続かなかった。
チャイムと同時にその授業も終わって、十分間の休憩を挟む休憩時間。

生徒達も緊張の糸が解かれたかのように、あちこちからため息や声が聞こえる。
黒沼先生も無言で、教室を離れて職員室へ向かう。

一方の私は、急いで自習のために机の上に出したノートや教科書を片付ていた。
自主するフリに出した教科書やノートを、机の引き出しにしまっていく。

理由としては、いつもすぐに葵と愛藍が私の席に寄ってくるから。
何も書かれていないノートを勝手に見たり、デリカシーのない行動が、いつもの彼らの休み時間の過ごし方。

でも今日は違う。
今は葵や愛藍を受け入れないように、次の授業で使う教科書やノートを出す。

そして机にうずくまるように身を丸めた。
何より目を瞑りたい気分だし、このまま寝ようかと思った。

ちょっと疲れいる。

でもそれを許してくれない人達がいた。

私を許さない二人の友達の存在。

「ウサギ殺しの犯人」

私の心を不快にさせるように、私の頭に何かが当たる。

当たったものを確認するために私は上体を起こして落ちた物を確認すると、消しゴムが落ちていた。
『なんて消ゴム?』と疑問に思いながら、その消しゴムを拾う。

でもまた一つ、何かが頭に当たる。

三角定規だった。
運悪く角が私の頭に当たり、相当痛かったため私は声に出してしまう。

「いたっ!」

そしてその私の声に対して、笑い声が聞こえた。
聞き覚えのある、男の子の声が背後から聞こえて来る。

私は笑い声が聞こえた方を振り返る。
するとそこには私の親友が立っていた。

江島葵と柴田愛藍だ。
愛藍はまた笑いながら、私に問い掛ける。

「お前のせいで葵が疑われたんだけど。どう責任とってくれるの?」

愛藍の言葉は胸に刺さる。
刺さるというより、えぐられた。

「なんとか言えよ。なあ葵?」

その愛藍の声に、私は思わず葵の表情を確認。

でもその顔には何もなかった。
無表情とはまた別の葵の表情。

心がごっそり落ちてしまったような、見ていて不安になる葵の顔。

そして葵の再び突き飛ばす声が聞こえた。
夢の中でしか聞きたくない言葉・・・・・。

「そうだな、茜のせいでウサギ殺しの犯人にされそうだったぜ」

その葵の言葉、やっぱり冗談だと思った。
嘘だと思った。