これでいいんだろうか。
このまま紗季の幕は閉じてもいいのだろうか。

実の親に酷い事を言われて、妹を助けることなく無惨なお姉ちゃんの姿のままでいいのだろうか。

・・・・・・・・・。

いいわけないよね、バカ。
小緑を助けに来たと同時に、紗季も助けに来たようなものだし。

私は横目で隣の小緑の表情を確認する。
紗季以上に辛そうな表情を浮かべる小緑を見て、私は無性に腹が立った。

流石に小緑が可哀想過ぎる。
いくら家の事情とはいえ、これはあまりにも酷すぎる。

だけど私、体も思考も前に進まなかった。
嫌がる紗季を目の前に、結局私は目の前の光景に目を逸らしてしまった。

『誰か助けてくれないかな?』って、馬鹿みたいなことを考えてしまう。
その『誰か』が私なのに。いつの間にか拳の力も抜けているし。

・・・・・・・・・。

やっぱり私、口だけの人間だ。
威勢のいいことは簡単に言えるけど、想像を遥かに越えた目の前の出来事に、足がすくんでしまう。

それに何が『口だけの奴等には絶対になりたくない』だ。
結局目の前の出来事に言い訳を作って、逃げているだけじゃんか。

ってか、この前は出来たじゃんか。
草太のいじめに、私は真っ向から止めに行ったじゃんか。

結果は小学生相手にボコボコされて愛藍に助けられたけど、しっかり向き合ったじゃんか!
何でも今は出来ないのさ!
私、頭おかしいんじゃないの?

・・・・・・・・。

もうやだ。
やっぱり、二度と人助けなんてしたくない。

そもそも私なんかが人助けなんて出来ないし・・・・・。
私はいつの間にか下を向き、紗季から目を逸らした。

もう帰ろうかな。

でもそんなダメな私の背中を押すように、リビングの扉が開く音が聞こえる。
隣いた小緑はずの声が聞こえる。

「全部僕が悪いんです。お父さんお母さん、ごめんなさい」

小緑に『頼りにしてます』って言われたのに、何もしていない私。

小緑を守っていたはずなのに、『いつの間にか小緑に守られている立場』だと私は気が付いた。
そして『いつも誰かに助けてもらっている』と思うと、情けない。

リビングの中で小緑は両親に向かって深く頭を下げていた。
今にも泣きそうな表情の小緑の姿は見ていてとても辛い。

だけどその申し訳無い表情を浮かべる小緑に、父親は親とは思えない言葉を浴びせる。

「小緑。何しに来やがった。もうお前の家はここじゃねぇだろ」

「お父さん!」

叫ぶ紗季に対して、母親は紗季の頬を殴った。
でも紗季は負けじと、弱い腕力で母に抵抗する。

だけどまた一方的に紗季はやられる。

そんな中でも小緑は自分の言葉だけを貫いた。