ペンギンショーが終わったら、私と小緑は水族館の中を何周も回った。
何度見ても変わらない光景だったけど、それはそれで楽しかった。

空腹という言葉すら忘れて、朝から何も食べていない私はただただ楽しかった。

気が付いた頃には優しそうな女性のアナウンスで『閉館時間なので帰ってください』と遠回しに言われた。

だから私は小緑と一緒に両頬を膨らませて水族館を後にした。
でも『また来ようね』って言って、二人で笑った。

そしてここからが本番だ。
山村小緑という寂しい女の子を取り戻すための戦いが始まる。

紗季の家は知っている。
小学生の頃に『遊びにおいでよ』と言われて、紗季の家に何度か行ったことがある。

紗季の部屋はゲームしかない女の子とは思えない部屋だったが、それはそれでいい思い出だ。

私は初めてのゲームに悪戦苦闘。
そして『手加減』という言葉を知らない紗季に何度も負けた記憶がある。

ぶちギレた私は紗季と喧嘩したっけ。
泣きそうな表情で何度も何度も謝っていた紗季の姿はどこか面白かった。

『本当に素直な子なんだ』って。
『嘘すら付けない、常に全力の女の子なんだ』って。

その時は思った。

その紗季の家は大きなマンションの中にある。
そのマンションとはお金持ちが住むようなタワーマンションで、しかも紗季の家は最上階の二十階。

ガレッジの車は見たことのない車ばかりが並んでいる。

そして『私は来る場所を間違えてしまったのではないか?』と、いつも思わされる。
『家に着きそうなときにメールをして』

ふと携帯電話を確認したら、紗季からメールが来ていた。
私は慌てて返信をすると共に、私は紗季の住むマンションのエスカレーターに乗り込んだ。

エレベーターはどんどん上昇していく。

そんな中、一緒にいる小緑は抵抗する。

「ってかなんで?僕、家出中って言ったよね?」

不満げな小緑は私を細い目で睨み付けていた。
ちょっと怖かったが、私はいつもの無愛想を続けていた。

「いいの。私が個人的に紗季に説教してあげるんだから。『ゲームばっかしていないで、たまには妹と一緒に遊びなさい』って。どうせ紗季、卒業まですることないんだし。だから小緑も来て」

「大きなお世話」

その小緑の言葉に、私もそうだと思う。
らしくないことまでやってさ。

それに紗季に言われた通りだ。
『他人に興味がないんじゃなかったの?』って。

最近その言葉が心に引っ掛かる。