「ないわけがない。紗季っていつも馬鹿みたいに優しいし、自分のことを二の次に考えてしまうようなお人好しだし。妹を捨てるなんて馬鹿みたいな考えは絶対にない!」

私の言葉に紗季は黙り混んだ。
そして暫くしてから、人が変わったかのような紗季の低い声に私は一瞬だけゾッとした。

「ホント、そういう所は鋭いよね?他人に興味はないが口癖じゃなかったの?」

他人に興味ないか。
・・・・確かにそうだったね。

「紗季だって性格悪くなってきてるよ。昔は嘘のつかない素直でいい子だったのに」

「それ、いつの話さ?もう」

そう言って紗季は深いため息を吐いた。
多分、らしくない言葉を使う私に呆れているのだろう。

本当は私、他所の家族の事情には手を出したくない。
家庭の方針というものがあるなら、部外者は口を挟んではいけないと思うし。

でも私に出来ることがあるなら何でもする。
私と同じような『くだらない事』で悩んで生きても、『将来良いことなんてない』って伝えたいから。

そんな私に、紗季は囁く。
自分で考えた、紗季らしい小緑を助ける方法を語る。

「こっちゃんを私の家まで連れて来てほしい」

その優しい声に、私は聞き間違えたのかと思った。
呪文のような難しい言葉が来ると思って構えたのに。

「それだけでいいの?」

「結構難しいよ。あと、出来るだけあの子の話を聞いてあげて。それとそろそろ水族館に行きたい頃だから」

「なんで水族館?」

「こっちゃん、ペンギンショーが大好きだから。定期的に見ないとイライラしちゃうから。可愛いでしょ?こっちゃん」

「ペンギン?なんで?」

紗季は笑う。