両親に抵抗して、唯一の味方である紗季の存在も拒んだ小緑。

だから紗季も消極的なんだと私は理解した。
何をしても話を聞いてれない妹に、紗季は手を焼いているのだろう。

最初の小緑の印象は『クラスの友人にも囲まれて、家の事情を友達に知られないように何とか騙し騙しに生きている』のだと思った。
学校でストレスを解消しているのだと、勝手に想像してしまった。

それと『小緑が私に似ている気がする』って言ったのは、小学生の時の私の表情と酷似していたから。
とても辛くて、得体の知らない影に押し潰されそうな表情。

まるで過去の私が映る、『魔法の鏡』を見ていた気分だった。

そしてあの表情が出来るのは、一人ぼっちの幼い子だけだ。

でも小緑、お姉ちゃんである紗季の事を話せば目の色が変わった。
まるで餌に食い付く空腹のライオンのように反応がいい。

だから心の底では、『さきねぇを頼りにしている』ということは分かった。
紗季に『助けて欲しい』と心の中で叫んでいたことは、私にも分かった。

それに今の小緑の気持ち、凄く理解出来る。
いくら自分が意地張っているとは言え、『助けて欲しい』が本音たし。

何よりそれ、私も経験あるし・・・・・。

昔の話だ。
その時の私はいじめられて、本当に病んでいた。

学校でいじめれている事を親に言わなかった私だけど、勇気を出して朱羽お兄ちゃんに相談しようと思ったことがある。

でも『話がある』と言っても、仕事で疲れて全然聞いてくれない朱羽(シュウ)お兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんを私は嫌いになった。

そしてそれからお兄ちゃんのことを、ずっと無視していたっけ。
以後お兄ちゃんに助けを求めることはなくなった。

でも本当は私のことを一番に考えてくれた朱羽お兄ちゃん。
私のいじめに気が付くと真っ先に謝ってくれたっけ。

『茜が苦しいときに気付かなくてごめん』って。

そして真っ先に保健室登校を提案してくれたっけ。
本当に妹想いの優しい朱羽お兄ちゃん。

だからきっと、このお姉ちゃんも朱羽お兄ちゃんと同じことを思っているのだろう。

この心の底から優しい紗季お姉ちゃんが、黙って何も考えずに見ている訳がない。

「じゃあ紗季、教えてよ。どうやって小緑を取り戻すの?私も手伝うから」

「え?」

今日初めて紗季の驚いた声を聞いた。
電話で紗季の顔は分からないけど、多分キョトンとした表情をみせているだろう。

私は続ける。

「もちろんあるんでしょ?妹を更生させる物語」

「ないって言ったら?」

静かに言う紗季に、私は珍しく怒りの感情を出した。